需要計画の精度を高めるためにも、また全社的な視点での計画を立案できるためにも、現状の製販調整では参加していない製品開発やマーケティング部門などがS&OPの検討に参加することが必要となります。
計画の調整においては製販調整会議に頼るのではなく、マネジメントレビューに至るサブプロセスを構築し、各オペレーションの部門とは独立した「S&OPチーム」が中心となり、全社視点で計画を調整する体制を確立します。S&OPチームは月次レビューサイクルだけでなく四半期レビューも同様にコーディネートし、経営とオペレーションをつなぐ中心的な役割を果たします。また在庫責任の所在を明確にするためにも販社や本社、生産間で合意形成のルールを明確に定義します。
マネジメントレビューは、四半期サイクルだけでなく月次、週次でも開催することで経営層がS&OPに強く関与することを促します。サブプロセスで確定した計画はマネジメントレビューで最終承認されますが、経営層がS&OPプロセスで立案する計画に対し深くコミットすることで各部門が計画を確実に実行することにつなげます。
製販調整や現場の最新情報を四半期レビュー会議で経営層が共有するには、それぞれ扱う情報の粒度や切り口が異なるデータを齟齬(そご)がなく統合された形で管理することが必要であり、その際ITシステムの活用が必要となるでしょう。
全社での情報共有化の基盤を整備し、情報粒度の変換をコントロールしたり代替案のシナリオを検証したりするシステムを構築できれば、製販オペレーションと経営の情報を分断することなくつなぐことが可能になります。これにより、各担当者や経営層の意思決定スピードと精度を大きく改善できます。
例えば、当初のベース案では売上金額や粗利の計画が目標に対して未達となってしまう場面で行われるレビュー会議では、経営層が販売地域や製品数量の変更を判断していくことがあります。ITシステムを活用すれば、その場ですぐにシミュレーションし、複数の販売見通しを立てて、目標達成に向けて検証ができるようになります。単に表にまとめた数字だけでは、指示が出ても、実現可能か否か、想定した結果を得られるかが即答できず、持ち帰って再計算し、後日報告する形になります。そうしたことによる意思決定の判断の遅れは、億単位の金額のブレに直結することになりかねません。
人力で、Excelの帳票だけを使って集計・配分することで計画を取りまとめていくことも可能ですが、高度化されたITシステムの支援を積極的に活用すれば、作業を劇的に効率化し、計画サイクルや意思決定スピードを大きくスピードアップできます。例えば、わが社では製販調整を月次サイクルで行っていますが、週次での計画作成が可能になるかもしれません。
以下は高度なITシステムの活用で実現できると考えられる項目です。
これまで、プロセス・組織・ITシステムごとに課題と今後の方向性を整理してきましたが、S&OPプロセスの導入により期待できる効果を表1にまとめました。
項目 | 現状の課題 | 今後の方向性 | 効果 |
---|---|---|---|
プロセス | 部門都合が最優先。確立された合意形成プロセスや評価指標がない ・声の大きい営業、稼働率優先 ・会議に大きく依存 ・製販調整と四半期レビューを連携するプロセスが未整備 ・ルール/評価指標が不明確 |
全社視点で製販や事業計画を同期化させ、PDCAサイクルを確立する ・製販調整、四半期の計画を全社視点で合意形成するプロセス ・KPIを定義し、計画対実績をチェックしフィードバック |
需要計画精度向上 在庫適正化 売上・収益向上 作業効率改善 |
組織 | 各部門を横串で統括する組織がなく、責任の所在も曖昧 ・オペレーションと経営を繋ぐ役割の組織が不在 ・生産、営業が中心の製販調整 ・責任の所在が曖昧 |
部門横断で独立した組織を設立し経営とオペレーションをつなぐ ・S&OPチームの設立 ・経営層のコミットメント ・製品開発/マーケティング/財務部のレビューへの参画 ・役割/責任の明確化 |
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ITシステム | 最新の計画・実績情報を全社で共有する仕組みがない ・最新の情報は各担当者のみ把握 ・情報集計/配分調整は手作業で会議の準備に膨大な労力と時間 ・経営層は正確/迅速に判断不可 |
意思決定スピードと精度を高めるため情報共有化の基盤を構築する ・全社が最新情報、合意された計画を共有 ・月次から週次の製販調整 ・自動集計/按分 ・シミュレーション機能 |
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わが社の場合、韓国企業のようにS&OPを一足飛びで構築することは難しいですが、段階的にS&OPを構築していくことを想定しています。最初のフェーズでは、現行の計画サイクルは変えずに製販調整の合意形成プロセスの見直しと、役割・責任・KPIの定義を中心に進めるのが良いと考えます。また同時に製販の最新情報を共有化できるIT基盤を順次整備していくことで、四半期レビューで検討する際の情報の精度を高めていきます。
◇ ◇ ◇
Sさんは、提案用のプレゼンテーション内容を話し終えました。
「Oさん、このような提案内容でどうだろう?」
Sマネジャーの説明を聞き、O本部長も説得の可能性を確信し始めていた。「早速次の会議で提案する準備をしよう!」
「では、まず製販調整の合意形成プロセス・ルールを見直すため、営業、生産、製品開発、マーケティンググループから人を集めプロジェクトチームを立ち上げよう。このあと私はプロジェクトをスタートさせるためS&OPの重要性を社長に提案しに行くよ!」
◇ ◇ ◇
OとSの表情は自信とやる気に満ち溢れていました。2人はこれまで学んだ知識を生かして、S&OPプロセスの自社導入にいよいよ動くことを決意したのでした。
第一部、第二部と続けてきた本連載も、今回でいったん終了です。
ここまでで、Sさん、Oさんの会社が抱える課題、そしてそれを解決するためのS&OPプロセスがどのようなものであるかを見てきました。今後、2人は具体的に自社での導入に向けた活動を推進していくことになるようです。皆さんも自社業務の改善・改革を目指す際に、2人の検討内容を参考にしてみてください。
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