モノの管理とお金の管理をつなぐS&OPプロセスと、脱予算経営ってどうつながるの? 脱予算経営との関連性からひも解いていきます。
第一部連載「S&OPプロセス導入 現場の本音とヒント」では、いま製造業の現場で各部門が抱えている悩みと、解決の糸口を得るまでを紹介してきました。前回からスタートした第二部「リサーチペーパーでひもとくS&OP」では、第一部の課題を解決すべく、各部門の視点から見たS&OPプロセスの意味、効果を検討していきます。以降、本編はリサーチペーパーの形式で紹介していきます。
S&OP-Japan研究会メンバーが創作した100%フィクションの物語と、各分野の専門家、現場のプロの解説によって構成されています。連載に登場する人物は解説で言及するものを除き、特定の個人・企業・団体に関係するものではありません。
今回のテーマは、「S&OP」と「予算管理」の関係です。
「S&OP」は数量を中心とした業務の計画です。対して「予算」は、金額を中心とした経営の計画です。これまで見てきたサプライチェーンの計画と同じく、予算管理も問題を抱えています。予算管理の立場から見た問題認識を表すキーワードが「脱予算経営」です。
日頃、厳しい予算管理に悩まされるSさんOさんと共に、S&OPプロセスと予算管理の関係を、リサーチペーパーで見ていくことにしましょう。
「脱予算(Beyond Budgeting)経営」は、財務成果達成のために必要な計画を、予算以外の数量計画や目標設定を用いながら、よりスマートな経営管理として行うことを目指します。
「脱」予算経営は、「非」予算経営ではありません。Beyond Budgetingという言葉が示すように、旧来の予算経営管理を越えたところにあるものです。
当然ですが、営利企業であれば財務成果は最重要の成績です。予算は「金額」という単位で表現された企業活動全体の計画です。
予算編成の基本的考え方は、
ですから、どうしても予算管理のウェイトが大きくなります。
事業運営上、経営者が予算管理を厳しくしていく動機付けもあります。経営者の立場でいえば「財務成績がどうなるか」が最重要です(記事参照)。量の単位でいくら報告されても「で、いくらになるの」が最大の関心事でしょう。
全てに使える標準単位「金額」であれば定量的に事業を認識できます。しかし、現場は数量から考えるので、金額はサバを読んだり余裕を持たせます。すると、経営者はリスクヘッジのため、最終結果=予算目標をより厳しく設定し、現場に過剰なノルマ掛けをしていくことになります。
こうして予算管理偏重の結果、最終結果の数字しかやりとりがされなくなり、経営者からは、販売や供給で数量や構成のアンマッチがあっても見えにくくなります。ことによったら、社内でも交渉する相手ごとに「数字を作って」実態とかけはなれた金額目標がひとり歩きし、なおさら不透明感が高まるでしょう。
予算偏重経営の課題、すなわち脱予算経営が求められる理由をまとめると以下の通りです。
では、このような予算管理の課題に対して、S&OPプロセスはどのように関わり、効果を発揮するのでしょうか。
S&OPプロセスと予算管理のかかわりを、大まかに2つの観点で見てみましょう。
1つは、計画を策定し、見直しを行う「時間軸の中でどう位置付けるか」という観点、もう1つは「データをどう扱うか」という観点です。
まずは、S&OPプロセスの計画を、「時間軸の中でどう位置付けるか」という観点で、予算とのかかわりを考えてみましょう。種々の計画を、「他の計画との関係」「見直しサイクル」「対象として扱う期間」で整理すると、図のようになります。
S&OPで扱う計画の位置付けは、予算と個別業務計画の間を結ぶ、業務全体の「ローリング」計画といえます。
予算は、一定期間をおいて見直す「サイクリック」な計画です。予算は、中長期計画からブレークダウンされて、活動の「枠」として降りてきます。決算の関係から会計年度の年間計画としてセットされ、設定した期間が対象となります。対象より先は、翌年度の予算策定の時期に、新規仕切り直しで設定されます。
対して、個別業務計画は、随時見直し続けるローリング計画です。業務計画は、日常業務の積み上げから成り立っています。毎日、毎週、先へ先へと作っていきます。また、現場で見える計画ですから、手元は明るく先々はぼんやり、となっています。
S&OPで計画を全体調整する狙いは、「予算に対応した業務計画を立てる」のではなく、「複数構えた業務計画の中から、予算に耐える・越えるものを、状況を見ながら素早く切り替えていく」ことです。
S&OPは、業務計画の意思統一、リスクや機会と、それに対応できる代替策=シナリオの確認の場です。経営者によるレビューは、月に一度の「御前会議」ではなく、計画や代替案について関係責任者が認識統一をする場となります。
ですから、過去の振り返りレビューは「できたか確認」や「できなかった申し開き」ではなく、今後の意思決定のための直近の予測・計画の精度の確認です。また、シナリオが変わらない「目先(例えば1カ月以内)」の「調整」は議論しません。
S&OPの計画は、当年度予算に対しては、進捗管理として機能します。S&OPの当期プラスα数カ月の計画は、翌年度の予算編成がどのように構成できるのかの裏付けとなります。翌年度予算より先に、業務の計画を用意することになります。
このような点を踏まえて、S&OPの代表的なベストプラクティスを2つ考えてみましょう。
これらを言い換えれば、S&OPの計画は「年間予算よりも長い期間」「絶えず洗い替えをする」「唯一無二の完璧な計画より、さまざまな状況変化を織り込んだ、複数の計画が必要」ということです。
ですから、S&OPでは、予算と個別業務計画を取り持つために、当年度プラス最低半年から一年、つまり18〜24カ月の計画を持っておきたいのであり、絶えずローリングして複数の業務計画を洗い替えし続けたいのです。
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