このように、オルタネータは鉛バッテリーと切っても切れない関係です。しかし最近は、オルタネータの役割が発電だけというわけでもなくなっています。日産自動車のミニバン「セレナ」に採用された「ECOモーター」は、その好例と言っていいでしょう。
エンジンを始動させるには、クランクシャフトを回転させる必要があります。このため、一般的にはクランクシャフトに直結しているフライホイールの外周にあるリングギアに、スタータモーターのピニオンがかみ込むことによって、クランクシャフトを回転させているのです。
しかし、このECOモーターと呼ばれるオルタネータは、本来はエンジンの動力によってオルタネータを駆動させるために存在している駆動ベルトを逆に活用します。アイドリングストップ状態からのエンジン再始動時に、ECOモーター自身の動力をエンジンのクランクシャフトに伝達して、エンジンを始動するという発想です。
もちろん、通常のオルタネータとしての発電も高効率で行えます。さらに、エンジンの負荷が増大しても燃費に影響しない、エンジンの燃料噴射が停止している間は、ブレーキエネルギーを使って積極的に発電(回生)を行うという工夫も施されています。
さらに、2012年8月発表のモデルでは、このECOモーターを動力源としても活用するようになりました。特にトルクが必要となる発進時に、ECOモーターを補助動力として使用できるようになったのです。モーターを走行用に利用していることから、ハイブリッドシステムの1種として「S-HYBRID」と名付けられています(関連記事1)。
他にも、2012年9月発表のスズキの新型「ワゴンR」に、「ENE-CHARGE(エネチャージ)」という新機構が採用されています(関連記事2)。
エネチャージは、高性能のアイドリングストップ対応鉛バッテリーに加え、充電受け入れ性能が高いリチウムイオン電池をサブバッテリーとして搭載しています。さらに、従来のオルタネータと比べて、2倍もの発電能力をもったオルタネータを採用しています。
このように、バッテリーの充電受け入れ性能ならびにオルタネータの発電能力を、許されたコスト内で可能な限り高めた環境を用意し、オルタネータによる発電のための動力源のほとんどを減速時の回生エネルギーによってカバーするという極めて大胆な技術です(バッテリーの充電状態によっては通常発電モードになります)。
つまり、減速時の回生エネルギーを2つのバッテリーに蓄えておき、普段の走行時に用いる電力はこれら2つのバッテリーに蓄えた電力によって賄います。オルタネータによるエンジンへの負荷は、極限まで削減されているというわけです。
オルタネータは自動車の燃費を左右する重要な電装部品です。最近では、エンジンによってただ回されて発電するだけではなく、必要な時だけ発電を行うとともに動力源として活用もされるようになっています。
少し視点を変えると、全てはバッテリーの充電受け入れ性能の進化とに合わせて、オルタネータも進化しているとも言えます。徐々に車載用途での利用が本格化してきたリチウムイオン電池や、まだ見ぬ新たなバッテリーの登場に期待しましょう。
次回は「スタータ」について紹介します。お楽しみに!
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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