三菱重工業は次世代新交通システムの新ブランド「Prismo(プリズモ)」を開発したと発表し、受注活動を開始した。すでに海外から引き合いがあり、早ければ数年後には提供するとしている。
三菱重工業は2025年5月19日、次世代新交通システムの新ブランド「Prismo(プリズモ)」を開発したと発表した。同日から受注活動を開始する。すでに海外から引き合いがあり、早ければ数年後には提供するとしている。
新交通システムは、電力駆動の全自動無人運転車両システム(AGT、Automated Guideway Transit)を使用する公共交通だ。電力駆動で1度に多くの乗客を運べることに加えて、アルミ製の車体やLEDライト、オイルフリーのエアブレーキシステムなどの搭載技術も含めて環境に優しい移動手段だと位置付けられている。
都市内/空港周辺の移動手段として採用されており、日本では「ゆりかもめ」「日暮里・舎人ライナー」「埼玉都市高速鉄道ニューシャトル」などが知られている。プリズモは、2000年代からアジアや中東、米国など国内外で納入してきたAGTの新たなブランド。エネルギー効率の向上や駅間の給電レールレス化によるコスト低減が特徴で、4年前から開発してきた。
プリズモは省エネやコスト低減だけでなく、カーボンニュートラルへの貢献も打ち出す。プリズモの車両を製造する三菱重工 三原製作所(広島県三原市)は必要な電力の全てを太陽光発電でまかなっており、新交通システムの製造や建設資材に由来するCO2排出量を従来比で40%以上削減する。一般的に環境に優しいとされる公共交通だが、製造時のCO2排出削減でライフサイクル全体での脱炭素化に貢献する。
また、エネルギー回生の強化など効率向上により運行中のCO2排出量を10%削減する。製造から廃車までのライフサイクル全体ではCO2排出量を6430トン削減する試算だ(従来の三菱重工製の空港向けAGTが比較対象。30年間運行する想定)。
プリズモには、武蔵エナジーソリューションズと三菱電機が共同開発する次世代蓄電モジュール「MHPB(Mitsubishi High Power Battery)」を搭載する。これによりプリズモは駅の停車時間内での短い急速充電と、走行中の回生エネルギーによる充電で、給電レールを使わずに2kmほど先の次の駅まで走行する。10%の傾斜にも対応した登坂力も持つ。最高速度は時速80kmだ。
MHPBは鉄道向けに開発されていたが、AGT用にカスタマイズして使用する。鉄道では回生エネルギーを加速など走行のアシストに使うが、AGTは回生エネルギーを駅間の走行に充てる。自動車のHEV(ハイブリッド車)とEV(電気自動車)のような違いがある。
三菱重工の既存の新交通システムは、給電レールを通じて回生エネルギーを他の車両に送っていた。他の車両が加速していないなど、タイミングによっては回生エネルギーが使われないため熱としてムダになっていた。プリズモでは各車両が回生エネルギーを蓄電できるようになり、従来のエネルギーロスが有効活用される。
車両への蓄電モジュールの搭載によって給電レールをなくすことに加えて、レール1本のセンターガイド方式を採用することで、レール2本の既存のサイドガイド方式と比べてインフラのスリム化を図る。ガイドシステムの物量は半分になる。新設時の建設コストや軌道構造物を削減する他、集電装置や給電レールなどの電気設備やガイドレールなど駅間の設備のメンテナンス負担も大幅に軽減できる。駅間の給電レールはなくなるが、駅には従来通り電気設備が残るため、停車時間中に急速充電できる。
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