夏場のドライブで大活躍するカーエアコンの冷房機能。一体どういう仕組みで冷やすことができるのか前後編に分けて紹介する。前編で説明するのは、冷房機能に必要不可欠な冷媒と、冷媒を使って冷やすための冷凍サイクルの全体像についてだ。
今では、冷房※1)が付いていない自動車など想像したくもありませんが、これも全て技術の進歩による「当たり前」なのです。
※1)一般的には冷房を「エアコン」と呼ぶことも多いのですが、今回からカーエアコンの冷房と暖房、それぞれのメカニズムを分けて説明しますので、意図的に「冷房」と表記しています。
夏の暑い日、炎天下で駐車していた自動車に乗り込んだ瞬間の気絶しそうな暑さに対抗するべく、とにかくエンジンを始動したらすぐに冷房全開でしばらく放置。
ある程度耐えられる室温になった所で乗り込むものの、シートベルトタングなどの金属部分が火傷しそうな高温になっていることに気が付かずに肌と接触してしまい……。
などなど、真夏のエピソードというのはいろいろと思い浮かぶところがありますね。
さて、とても基本的なことですが、どうしてカーエアコンの冷房は冷風を作り出すことができるのでしょうか?
冷房には冷媒が使われていることをご存じの方も多数いらっしゃると思います。詳細な冷凍サイクルは後ほど説明するとして、もっと冷房を簡単にイメージしていただくために身近な物を例に取ってご紹介してみたいと思います。
体を直接涼しくするものをイメージすると、個人的に真っ先に浮かぶのはコールドスプレーでしょうか。メントール入りのガムや飴は涼しく感じるだけで実際に温度が下がっているわけではないようですので、ここでは除外します。
あまり思い出したくはありませんが、注射をする直前に腕に塗られるアルコールもかなり涼しくなりますね。
実はこれらに共通しているのは気化熱です。
あえてご説明する必要はないと思いますが、気化熱とは液体が気化する際に周囲から奪う熱量のことです。
取り込んだ空気を一時的に冷やすだけであれば、アルコールなどの気化しやすい液体を噴霧すればよいのですが、冷房として使用するには連続的に気化熱が生じるメカニズムが必要になります。
もちろん大量のアルコールを搭載しておき、必要に応じて噴霧することも理論的には可能でしょう。
ただし自動車に搭載する冷房装置であることを前提に考えれば現実的ではありませんね※2)。
※2)オゾン層を破壊せず温暖化にも直結しない、アルコール(エタノール含む)を冷媒とした冷蔵技術などが研究開発されているようですが、ここでは割愛します。
つまり冷房に求められる基本性能は、消耗せずに繰り返し気化熱を発生させられることになります。気化熱を繰り返し奪うということは、液状物質が何度も気化する必要があります。つまり、
液体⇒気体⇒液体⇒気体……
という無限のサイクルが成り立つ構造が必要となります。
このサイクルを冷凍サイクルと言い、もちろん冷房は冷凍サイクルを実現するための構成部品で成り立っているのです。
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