ラプラス変換と割り切ったお付き合いをするよ独学! 機械設計者のための自動制御入門(6)(4/4 ページ)

» 2010年05月25日 00時00分 公開
[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]
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なるほど、なるほど。ここまでは、いままでのことを復習すれば理解できるよ

ここからが、今日の本題だ。まず、図6の比例制御のボード線図が、比例+積分によって、どうなるか見てみようや


 それでは、比例+積分の伝達関数G1のボード線図を描いてみましょう。

で、比例要素の係数cを0.04として、積分要素の係数bを0、0.1、0.01、0.001の4つの値について伝達関数G1の周波数応答特性(ボード線図)を計算すると、図8のようになります。比例のみの場合である、b=0の場合と比べて、積分を加えたときは、ω⇒0でG1のゲイン特性が∞になります。またG1の位相特性はωが増加するにつれて、−90°から0°に増加しています。

図8 比例+積分補償における積分係数b によるG1特性の相違

 次に、開ループシステムの伝達関数Goの周波数応答特性(ボード線図)は図9です。図7や図2のGoと比べてみてください。 図2の積分要素のみの場合より、位相余裕が改善されシステムが安定化されたのが分かります。また、ゲイン特性についても、図7の比例要素のみの場合より改善されているのが分かります。

図9 比例+積分補償における積分係数b によるGo特性の相違

図2でも図7でもええけど、浴槽水位特性の伝達関数G3のゲイン特性を見てみぃ。ωが0.1(rad/min)から0.01(rad/min)に変化するときゲインは20(dB)増加してるやろ? それに対して、比例+積分の場合の開ループ伝達関数Goのゲイン特性は40(dB)増加してる。すると、ω⇒0のときはG3とGoのゲイン差はもっと大きくなるから


だから(23)式はω⇒0で


漏れqがあっても、目標水位hoに到達することになるわけや


 このように比例要素を加えると、積分要素だけの場合に比べて位相を進ませることができるので、位相余裕が増加します。元の制御要素に新たに別の制御要素を加えて制御性能を向上させることを制御系の補償設計と呼びます。今回紹介した補償設計は、広義の意味で、位相を進める補償設計と考えることができます。

ちなみに教科書では、位相進み補償というと、図10のようなボード線図の特性が紹介されてるやろ?


図10 位相進み補償要素のボード線図
図11 位相遅れ補償回路

これは、補償回路を図11のような電気回路で構成していたときの補償回路の特性や。抵抗RとコンデンサCで補償回路を考えていた時代の名残りで、デジタル制御が主流の現代ではもうあんまり使われへんとちゃうか〜、……と叔父さんは思ってるんやけどな


 実は、図10の位相進み補償は、低周波数域でのゲイン増加がないため、これだけでは静特性改善には有効ではありません。高周波域でゲインが増加するため、むしろ、応答性改善のための有効な補償方法として利用されます。応答性改善における位相進み補償の効果については別の機会に解説します。

ところで、位相余裕が改善されたっていってるけど、実際に安定化されるのかな?


おいおい、何いっとんねん。第3回の説明で、位相余裕が少ないと不安定で、位相余裕を増やせば安定になるって、納得したんとちゃうんかい?


位相余裕が0°のときシステムが発振するのは分かったよ。けど、位相余裕を大きくしたらどの程度安定となるのかは、ボード線図からではよく分からないじゃんか


それもそうやな。位相余裕が5°から15°に増加したから安定になったっていわれても、どの程度安定になったのか、ピンとこうへんよな。そういうときにはシミュレーションを使って時間領域でその様子を調べるとみるとよく分かるで


 図12に、積分要素の係数b=0、b=0.01、b=0.001の場合のエクセル・シミュレーション結果を示します。図9からb=0.01の位相余裕が約60°に対してb=0.001では位相余裕は約86°です。

図12 浴槽水位制御シミュレーション

 b=0.01の場合は、一度目標水位60cmを超えてから、徐々に水位を下げ、もう一度水位を上昇させ、30分以上かかって目標水位60cmに到達しています。

 一方b=0.001の場合は、15分程度でスムーズに目標水位に到達しています。

ボード線図による周波数応答特性は、パラメータをどの程度の値にすれば、システムが安定になるのかという安定性改善、あるいは、少々外乱があっても満足できる精度で目標値に到達させることができるのか、という静特性改善の目安を与えてくれる。しかし、そのパラメータ値で本当に満足できる結果を得ることができるかどうかは分からへん。実際に作った物で実験して動かした結果を見て初めて、そのパラメータでよかった! と思うもんや


ふ〜ん、なるほどね。人間は時間が支配する世界の中で生きていて、周波数が支 配する世界で生きてるわけではないからね


うまいこというなー。実際に物を作って確認するのは大変だから、普通はシミュレーションで時間応答を確認する。今日説明したことをベースに車の自動運転制御についても説明しようと思ったけど、もう時間だな。草太、もう1泊していくか?


仕方ないね〜


 次回は、前半は、横風が吹いて直進できなくなった車の自動運転制御の場合の、静特性改善設計について説明し、後半は、次の学習のための踊り場として、いままで学習した内容を一度整理してみます。応答性改善の方法については次々回以降となります。

付録

Excelのエンジニアリング関数を使った図8、9のボード線図および図12の浴槽水位制御シミュレーションのExcelデータ(jido06.xls)のダウンロードはこちらから可能です(Microsoft Excel 2003以上でご覧ください)。



Profile

岩淵正幸(いわぶち まさゆき)

1953年生。技術士(機械部門)。日本セメント(現太平洋セメント)、川崎重工業精機事業部(現カワサキプレシジョンマシナリ)を経て、現在事務処理機器メーカーでシミュレーションを活用した設計方法の開発および設計コンサルティング業務を担当。川崎重工では、油圧制御システム設計、旧石油公団(現石油天然ガス・金属鉱物資源機構)委託研究による圧力波通信システムの開発研究、対戦車用ミサイル操舵装置の開発に従事。



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