車の運転制御を風呂の水位制御に置き換える独学! 機械設計者のための自動制御入門(5)(1/4 ページ)

車の制御フローを風呂の水位制御のフローに置き換えてみたけれど、何だかモヤモヤする……。どうして?

» 2010年03月17日 00時00分 公開
[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]

当連載の登場人物

銀二

銀二(ぎんじ)

設計コンサルタント。甥(おい)っ子の草太を自分の息子のようにかわいがっています。

草太

草太(そうた)

銀二の甥。現在は大学院生です。ちょっと困るとすぐ叔父を頼ってしまうちゃっかり者だけど、頑張り屋さんです。


編集部注* 本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


 前回は、横風が吹いている中を車が自動直進走行をしているときに、風にあおられて車が直進路からそれると、元の位置に戻らない場合があることを伝達関数の低周波数の周波数応答特性との関係で説明しました。では、横風が吹いても、曲がらず真っすぐ車を自動操縦する方法はないのでしょうか? 今回と次回の2回に分けて、その対策方法について説明します。

 今回も、瀬戸内海を見下ろせる叔父さんの書斎から始まります。

強風が吹くと車は直進できない?

昨日はごちそうさま。薪釜(まきがま)で焼いたピザ。それに明石で取れた鯛(たい)は身が締まっていて歯ごたえがあっておいしかったよ


そうか、それはよかったな。じゃあ、今日は続きをやろうか。その前に前回の復習をしておこう


 道路のセンターラインに沿って自動的に運転するよう制御された自動運転システムは、横風がないときは真っすぐ進む車も強風が吹くと、目標値であるセンターラインからずれます。その理由は次のとおりです(前回 図1参照)。

第4回 図1

 強風により車のタイヤの操舵(そうだ)角1度分に相当する横ずれが発生したとします。そのずれをカバーするために、自動運転制御システムでは、目標位置であるセンターラインと車の位置の差である偏差がコントローラに入力されます。例えば、コントローラの設定が「2°/m」であれば、偏差0.5mに対してハンドルを1度回転させます。そしてタイヤも1度回転するとすれば、その角度はちょうど風による横ずれに対抗する角度に対応します。つまり、タイヤの角度を1度回転させることで、車は横風を受けても真っすぐ進むことができることになります。しかし、そのためにはセンターラインと車の位置偏差は、常に0.5m必要ということになります。

GoとG3のデシベルの差はプラスではなくてマイナスの6dB(デシベル)でG3の方が小さいんや。だから比で表すと2分の1つまり……


(1)

タイヤの操舵角が1度ずれるような横風が吹いているとすると、Y2’=1°だから、車は目標位置Xから0.5mずれることになる


筆者より

現在は訂正されていますが、前回の「独学! 機械設計者のための自動制御入門(4)」の(21)式において、GoとG3のゲインの差が、低周波域で6(dB)なので操舵角が1度ずれる横風が吹くと、車は目標位置Xから2mずれると、記事公開後のしばらくの期間、記述しておりました。これはGoとG3のゲインの差をプラス6(dB)として計算した結果、その比を2としたことによる誤りです。謹んで訂正とおわびを申し上げます。



ダメじゃん。こんな簡単な計算ミスをするようでは、叔父さんも焼きが回ったね


そうやね。いま説明したような考え方で、計算結果をチェックしておくべきやった。いやー失敬、失敬


補償法と車の制御

さて、じゃあ今日は補償法の話だね。横風が吹いても、車が目標位置であるセンターラインの上を曲がらずに走るにはどうしたらよいか? っていう話


お前だったら、どうする。まずは自分で考えてみろよ


横風が吹いて、車が横ずれするのなら、横風の風速を計測して、その分のずれに対応するだけ多くハンドルを回すように補正したらどうだろ。図1にそのブロック線図を描いてみたけど、どうかな?


図1 横風を受けるときの自動運転制御構成

まったくアカンとはいわん。でも、風速10m/s(メートル秒)のときハンドルを何度多く回転させてやればよいかという補正データはどうやって作るねん。それに必要な風速センサの精度はどれくらい? とか、風速センサの費用の問題もあるしな


確かに。実用的ではないよね


人間は、どんなに横風が吹いても真っすぐに車を運転するやろ? 人間がやっている操作を機械にやらせると思って、考えてみたらどうなる?


そうだね……。いま頭の中でイメージしてみるよ。……自分が運転手だったらどうするだろう? 風が吹いていない状態でドライブしているとする。道は一直線。木立の中を抜けると急に強い風が吹いてきて、車は知らないうちに流されていた。気が付けば、ガードレールに当たりそうだ。当然僕はハンドルを切る。センターラインの真上に来るまでハンドルを切り続ける


具体的には?


タイヤの操舵角が5度ずれるような横風が左から吹いているとしよう。ボーッと運転し続ければ、車はそのうち右側のガードレールに衝突する。だからハンドルを左に切る。いま、ハンドル1度の回転がタイヤ1度の回転であるとすると、少なくとも5度以上ハンドルを切らないと元の位置には戻らない……


それを図に描いてごらん。図を見ながら機械にやらせるにはどうしたらいいかって考えてごらん?


       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.