数式を使わないで自動制御について教えるよ独学! 機械設計者のための自動制御入門(1)(1/3 ページ)

数式がいっぱい出てくる制御理論の習得に挫折した人は多いカモ。制御のエッセンスだけなら数式がなくても理解できる!

» 2009年06月25日 00時00分 公開
[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]

当連載の登場人物

銀二

銀二(ぎんじ)

設計コンサルタント。甥(おい)っ子の草太を自分の息子のようにかわいがっています。

草太

草太(そうた)

銀二の甥。現在は大学院生です。ちょっと困るとすぐ叔父を頼ってしまうちゃっかり者だけど、頑張り屋さんです。


編集部注* 本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


銀二と草太、再び!

 今回から、銀二と草太の技術問答シリーズ第2弾、「機械設計者のための自動制御独学入門講座」をお届けします。

  >>銀二と草太の技術問答シリーズの第1弾「ピタゴラスイッチの計算書を作ろう」

 銀二さんの甥(おい)っ子の草太は、大学院で研究に頑張っているようですが、制御工学の授業についていけないようです。そこでどうやら、またまた、銀二叔父さんに「学習のコツ」のつかみ方を相談しているようです。

大学院はどうだい?


実は、制御工学の授業がよく分からなくて困っているの。実験レポートも友達が書いたのを見ながら提出しているんだ。学部のとき、自動制御の単位がとれなかったことが悔やまれる。叔父さんはどうだった?


そういえば、私もよく分からんかったなぁ


でも、昔、ミサイルの操舵装置の制御設計をしたことがあるっていってたじゃん。制御理論が理解できなくても制御設計はできるんだ


理屈が分からなくても設計はできる! というのは確かに本当だな。実際、多くの設計者は理屈なんておかまいなしに設計している、っていってもいいくらいだ。なぜならば、図面さえ描ければ物はできるし、それに世の中には、理屈とおりにいかないことも多いからな


人間関係はそうかもしれないけどさー、機械は理屈とおりに動くんじゃないの?


おまえのいうとおりなんだが、実際にはまだまだ理屈が分かっていないこともある。まったく新しい製品については特にそういうケースが多い。だから、実際には、取りあえず造ってみて、なんでうまくいったかはよう分からんけど、その理屈は取りあえずおいといて、とにかく先へ進もう、っちゅうのが普通だわな


ふむ


で、後で時間ができたら、そのとき理屈を考えよう、っちゅうことはあるな。もっとも、多くの場合、なぜうまくいったのかその理屈を考えることは、結局置き去りにされるけどね


むむむ


それから、理屈自体は分かっているんだが、理屈に従って設計しようとすると計算が複雑で、計算ばかりに時間が費やされて開発期間が非常に長くなる。だから、理屈はほどほどにして、後は度胸で設計しちまえ!ってこともあるな


それじゃ、中学生でも設計できるじゃーん。ミサイルの操舵装置もそうやって設計したのかい?


そんなことはない。私の経験では振動や制御というのは、機械の動きが比較的理屈に合いやすい。逆にいえば、振動や制御は理論を知らないと途方もなく設計時間がかかるが、理屈を理解していると、比較的短時間で設計できるという、機械設計においては珍しい分野だな


でも、学生時代はよく分かってなかったんでしょ? どうやってマスターしたの。教えて


叔父さんが学んだのは、もうかれこれ30年前の話だからな。いまじゃもっと進んでいるんだろうな。おまえが習った教科書をみせてみぃ


 草太は、自分の机の上にあるバッグから、教科書を取り出すと、銀二さんに渡しました。銀二さんは、ちょっとメガネをずらして瞬きをしながら、本の目次に目を通します。

なになに、第1章 自動制御の概要、第2章 ラプラス変換、第3章 伝達関数とブロック線図、第4章 周波数応答、第5章 安定判別法、第6章 根軌跡、第7章 制御性能の評価、第8章 制御系の設計……あんまり変わっとらんなぁ


えぇ、そうなのかい


理論っちゅうのは、昔から進歩しとらへんのやなぁ。これなら叔父さんも教えることができそうだな。ただし、叔父さんのは独学だから、あんまり高等な説明はできんぞ。それでもええか?


結構結構。かえってその方が助かるわ


 というわけで、例によって銀二叔父さんと草太の問答の始まり始まりです。

まず、<自動制御ってなんだと思う?


自動で制御するってことでしょ?


おまえは小学生か! ……じゃあ、制御ってなんだ?


制御ってコントロールするってことでしょ。自分の思いとおりに機械を操るってことじゃないの?


そういうことだわな。それを自動でやるのが自動制御だ。例えば、おまえが風呂に水を入れようとして、水道の蛇口をひねったとする。おまえは、ボケェ〜ッと水面の高さを見ていて、ちょうどいい水位となったら蛇口をひねって、水を止める。これは?


図1 風呂の水位制御

 草太は、銀二さんの問いに、ちょっとむっとしながら、こう答えました。

それは自動制御じゃないし! そんなことぐらい分かってます! 自動制御だったらちょうどいい水位になったら自動的に水が止まるよ


ハッハッハ、小学生よりは知っとるなー。じゃあ、自動販売機にお金を入れて、欲しい飲み物のボタンを押すと、カラン、コロンと取り出し口までペットボトルが落ちてくるのは自動制御か?


図2 自動販売機
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