数式を使わないで自動制御について教えるよ独学! 機械設計者のための自動制御入門(1)(2/3 ページ)

» 2009年06月25日 00時00分 公開
[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]

どうなんだろうね。ボタンを押すと、ペットボトルが格納されている棚のゲートがソレノイドかなんかで開いて、棚に並べてあったペットボトルの1つが落ちてくるだけだよね。これを自動制御っていうのかな? 水道の蛇口を左にひねったら水が出て、右にひねったら水が止まる。これとど違うのかな。これが自動制御だったら、そんなに難しい話じゃないけど……


お客が入れたお金が、買おうとしているジュースの代金と比べて不足していないかどうかチェックして、もし足りなかったら、お客がいくらボタンを押してもペットボトルは出てこない。足りていたら出てくる。そういう所は、お風呂の水位がちょうどいい水位に達したら自動的に止まる、というのに似ているか、いないか。どっちだと思う?


お風呂の場合は、目標水位と実際の水位を比べて同じになったら止めるよね。自販機の場合も、目標金額と投入金額を比較して目標金額を超えていればジュースを投出する。どちらも、目標値と比較して一致したら次の動作に進むという点で同じだと思うけど


そうか同じかぁ? 自販機の場合は目標値じゃなくて基準の金額に達したらジュースを投出するんだぜ。1円でも足りなかったら、何もしない。基準値を超えたら、いくら超えてもすることは同じでジュースを投出することだ。同じじゃないだろう?


そういわれれば、そんな気がする


 草太はまだ、いまいちピンときていない様子ですが、読者の皆さんはいかがですか?

自販機の場合は投入金額を超えた段階で、ジュースを投出すればよいから、ジュースを投出する行為に時間的制限はない。もちろん、お金を入れてから10秒経たないとジュース取り出せないなんていうのは論外だよ。でも0.1秒が0.5秒になっても不便は感じないだろう。しかし、風呂の水位制御の場合、目標水位に達してから蛇口、つまりバルブを閉じるようでは目標水位を超えてしまう


そうだね。水道の流量が大きければオーバーする水位は高くなるね


では、目標水位を超えないようにするのはどうすればいい?


水位が目標値に近くなったら閉じるように制御すればいい


そう、そこだ


 ようやく草太は、自販機の場合と決定的に違う点にたどり着いたようですが。

お風呂の水位制御では絶えず水位をモニターしていないといけないし、水位の変化が速い場合には水位が低いときからバルブを閉め始めなければいけない


目標水位の直前でバルブを閉めればいいんじゃないの?


おまえは、流体力学も勉強してこなかったのか?


 銀二さんの言葉に、草太は「確かに習ったけども、うーん」と悩んでいます。さて、バルブを急に締めると、どうなるでしょうか?

ウォーターハンマが起きて、配管系に衝撃力が発生する。すると知らないうちに配管系にダメージが蓄積して、いずれトラブルにつながるだろ?


あっ、そうか。流速の2乗に比例して衝撃圧力が発生するんだった。ウォーターハンマを起こさせないようにするには、ゆっくり閉める必要があるんだったね


つまり自動販売機は、手順が決まっていて、手順どおりの操作に従って順番に行っていって、目的の機能を実現するという制御だ。これをシーケンス制御って呼ぶのは学校で習ったろ?


シーケンスを英語で書くと、『sequence』で、動詞では『順序づける』、名詞では『連続するもの』っていう意味だよ!


すごいなー! よく知ってるな!


あ。いま、ケータイで調べたー


アホ


 銀二さんは、草太の手から携帯電話を取り上げました。まったくもー……と心の中でぼやきながらも、説明を続けます。

とにかく、シーケンス制御も一応自動制御の1つなんだが、これを理解するのはそれほど難しくない。制御系の設計よりペットボトルが途中で引っかからないような通路を設計する、機械系設計の方がはるかに難しい


制御としては、いいっ放しの管理者みたいなもんだしね。おまえあれやっとけ。あいつがやっといたものが出きたら、そいつを受け取って、今度はおまえこれやっとけ、っていってるみたいなもんで、管理としては楽だよね。失敗しようがしまいが、わしゃ知らんていうんだからね


そういうことだね。ただ、失敗しようがしまいが、わしゃ知らん、というのはちょっといい過ぎだな。動作が正常に機能しなくなったら、ブザーを鳴らして警報ぐらいは出すよ


そう


自販機のシーケンス制御に対して、風呂の水位の制御の場合は、現在の水位を常に監視していて、目標水位よりはるかに下だったら、最大水量で水を入れ、目標水位に近づいてきたら、バルブを徐々に閉めていくようにバルブ開度を自動制御している


あー


このように、目標値と現在の値を常に比較しながら、関連機器を制御するのがフィードバック制御だ。普通、代表的な自動制御っていえば、フィードバック制御のことをイメージするな


バルブの開度によって水量が変化して、その結果水位変化が遅くなる。そういった状態変化を常にみながら、しかも目標水位になるべく早く到達するようにバルブ開度を制御するフィードバック制御の方が「ザ・自動制御」って感じがするね。教えて欲しいのは、こっちの方なんだ


そうだろうな。分かってはいたが、念のため復習してみたんだ


そういうわけで、機械設計者のための自動制御独学入門講座の始まり始まり

じゃあ、はじめようか。まず、フィードバック制御の基本システムが図1のように表現されるのはいいかい? 制御対象というのは制御されるものだな。風呂の例でいえば浴槽に入れる水量であり、その結果としての水位だ。操作部は制御対象を操作するもので、風呂の場合は蛇口のバルブであり、それを制御するモータだ。制御部というのは、バルブの開度をどの位にすればよいか考える部分だ。検出部はセンサで、水位計のことだ


図3 フィードバック制御の基本構成

この辺りまでは分かるんだよね。制御系を図3のようなブロックごとに書き分けることも理解できるよ。こういうのをブロック図とか、ブロック線図とかいうんでしょ?


ブロック線図まで分かれば、5合目まで登ったようなもんだ


うっそ! この後、いきなりラプラス変換なんて出てくるんじゃないの? ヤバーイ


そんなもん出てくるかい! ラプラス変換を理解しようとするから、つまづくんだ。取りあえず、分からんものは分からん、と素直に受け入れることも大事だ。門前の小僧習わぬ経を読む、っていうだろう。そのうちなんとなく分かってくるもんだ。とにかく、ここはひとまず、ラプラス変換のことは忘れて先に進もう


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