良君! ここまできて、何がいいたいか分かるか? 設計とはなぁ……。
甚さん、分かりました。その先をいわないでください。僕がいいます。設計とは、学校では学ばない『設計サバイバル術』を活用してこそ! ですね。
そうです! 設計という職業は、学校で学ぶ学問的な基礎知識のほかに、実務知識が必要です。この実務知識の中に、「設計サバイバル術」があります。ここを第1回の下図で復習しておきましょう。
設計とは、実務の「設計サバイバル術」を、「知識」と「道具」、さらには、「大道具」と「小道具」に分け、道具同士を使用目的に沿って、最適に組み合わせていく技術を「設計」といいます。
そうだ! これなくして、高価な3次元CADを使っている3次元モデラーを『猫に小判』『豚に真珠』というんだ。
良君! さえまくっているなぁ。さすがに、富士山麓大学の院卒だ。ていしたもんだよ。
いまの会社を3年後に辞めるために、僕、頑張っています。
ああ、その方がいいぞ。『不景気とは、会社が学生を選び、好景気とは、若手技術者が会社を選び直すとき』……どうだっ! いいこというだろう? 頑張れ、良君。いまの会社でしばらくは、我慢しろ。
いま、大変な就職難ですが、就職活動中の皆さん! どうか、頑張ってください。筆者は、街で擦れ違う皆さんを見て、とても頼もしく思います。目がキラキラしています。どうか、あきらめずに頑張ってください。
テレビCMを流し、良さそうに思える企業でも、「初任給だけが高い企業」「特許出願件数が少ない企業」「環境だけをアピールしている企業」などは、要注意です。
もし、間違って就職しても、3年間、「ガッツリ」とチャージ(勉強)して、良君のように頑張りましょう! 技術者なら、どこでもつぶしが利きます。真の技術者を目指してください。
分かりました。ところで、甚さん、前ページの図4の図中(丸囲み部)に『段差に注目』とありましたが、一体何に注目すればよいのでしょうか?
以下で、説明しよう。
図4の丸印で囲んだ「段差に注目」に関して図5で解説します。この部分は、本体への取り付け部です。ねじ穴を設けた取り付け用平面4カ所が形成されています。
もし段差がない場合、多くの設計者は、図5の左側のように4カ所を周辺の枠取りと同一面で設計します。図面には、平面度がほしい部分について丸印で囲んで指示します。そして、「平面度は、丸印部分に適用する」という注釈を付け加えます。
図面上で、物理的な境界のない部分に対し丸印で囲い、注釈を付けたところで、明快な領域指示とはいえません。それよりも、図5の右側に示すように、物理的に境界だと判断できる段差を付けることが「設計サバイバル術」の1つです。この方が、金型加工がしやすくなります。
このように、設計者としての心意気(センス)を身に付けてください。これが、職人の仕事です。学問ではありません。
甚さん、そのほかに小道具は、ありますか?
ユーハバ、グッド・クエスチョン(You have a good question)! 設計者として、向上意欲が感じられる、いい質問だ。だが、その前に聞いてくれよぅ。
今回は基板取り付け部に「底抜き」を採用しましたが、実は、図6に示す「ボス」を設ける場合の方が世の中で多く見受けられます。しかし、前ページで甚さんもいったように「底抜き」をした方が製造しやすいのです。
そうです、そうです。これこれ! 僕の持っているゲーム機のシールドボックスも、このボスを多用していました。
身の回りの商品を良く観察しているじゃねぇかい! 感心、感心……。
設計という職業は、学校で学ぶ学問的な基礎知識のほかに、実務知識が必要です。前者に重きを置くならば、学校に残り、研究職や教授となります。一方、設計者は、「職人」です。職人には、実務知識が必要で、それを積み重ねることを「実務経験」、その年期を「実務経験年数」と呼びます。
街の畳店、寿司店、蕎麦(そば)店、鰻(うなぎ)店、大工、そして、甚さんのような町工場で働く人は職人です。職人の知識については、書店で買える教科書はなく、学問のように体系化していないのが難点です。従って、親方や先輩が手取り足取り、熱意をもって後輩へ伝えなくてはなりません。
しかし、最近の日本企業は、ゆがんで理解された「成果主義」から、「出世逃げ」の単語が生まれ、部下を育成せず、出世だけを考える時代となりました。その頂点が、すべてではありませんが、(実は技術を知らない)技術系役員、技術系社長を生み出すことになってしまったのです。
技術が複雑化し専門化したいま、経営は経営の専門家に委ねる一方、もっと「技術」を、もっと「技術者」を大切にしていきたいものです。
筆者の事務所に何度か、こんな質問が来ました。
「いま、2次元CADを使用していますが、どんな3次元CADがお勧めですか?」
筆者はこう答えています。
「まず、複雑にゆがんで、多機能で、高性能と呼ばれる3次元CADを消去法で排除し、シンプルで、かつ、あなたの業界で多く使われている3次元CADを選択してください」
設計者は、職人です。職人は自分を補助する道具である3次元CADを必要としています。近年、職人を無視した暴走気味の3次元CADが出現しています。3次元CADが主役になってはいけません。皆さんが主役であり、ぜひ、不景気ないまであるからこそ、正しい道具を選択し、設計の原点に戻り、設計力を身に付けてください。
第5回でまたお会いしましょう。(次回に続く)
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会、埼玉県技術士。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)をはじめとする多数の書籍を執筆。
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