機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第13回は、位置度において重要な考え方の1つである「最大実体公差」について取り上げる。
前回から「データム(Datum)」を必要とする幾何公差の後半戦として「位置公差」の解説に入り、「位置度」について取り上げました。
位置公差には、位置度の他に「同心度」「同軸度」「対称度」「線の輪郭度」「面の輪郭度」があります。
これらについて解説を進めたいところですが、前回紹介した位置度において、「最大実体公差」という重要な考え方があります。今回は先にこの最大実体公差について取り上げることとします。
最大実体公差の定義について、前回も軽く触れましたが、あらためて「JIS B 0023:1996 製図−幾何公差表示方式−最大実体公差方式及び最小実体公差方式」を引用し、その序文を確認してみましょう。
最大実体公差は、あまりなじみのない用語かもしれません。筆者も、かつてプラーナーが開催した公差設計の講義を受講するまで知りませんでした。しかし、公差設計や今後主流となり得るGD&T(幾何公差設計法)において、この最大実体公差を知ることはとても重要なことです。以下、この序文を参考に解説を進めます。
部品形状を実現するために使用する材料が最も多い状態を「最大実体状態(MMC:Maximum Material Condition)」といいます。また、この最大実体状態となるサイズ(寸法)を「最大実体サイズ(MMS:Maximum Material Size)」といいます。
この逆に、材料が最も少ない状態を「最小実体状態(LMC:Least Material Condition)」といい、このときのサイズを「最小実体サイズ(LMS:Least Material Size)」といいます。
図1の部品Aでは、軸径の上/下の許容差(上:−0.1/下:−0.2)が規定されています。上の許容サイズ:軸径Φ11.9[mm]のとき、材料は最も多い状態の最大実体状態となるので、最大実体サイズはΦ11.9[mm]となります。下の許容サイズ:Φ11.8[mm]のとき、材料は最も少ない状態の最小実体状態となるので、最小実体サイズはΦ11.8[mm]となります。
図2の部品Bでは、穴径の上/下の許容差(上:+0.2/下:+0.1)が規定されています。上の許容サイズ:穴径Φ12.2[mm]のとき、材料は最も少ない状態の最小実体状態となり、下の許容サイズΦ12.1[mm]のとき、材料は最も多い状態の最大実体状態となります。
最大実体サイズはΦ12.1[mm]、最小実体サイズはΦ12.2[mm]です。サイズだけで考えると混乱してしまいますが、その場合は体積が最大なのか、最小なのかで考えるとよいでしょう。軸と穴では、許容値の上/下許容値による最大実体と最小実体の状態が“逆になる”ことが分かります。
軸と穴の最大実体状態につい
・軸は軸径が最大で最大実体状態
・穴は穴径が最小で最大実体状態
・体積で考えてみると理解しやすい
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