樹脂部品設計&加工間 3つのルール甚さんの設計サバイバル大特訓(5)(1/3 ページ)

設計者は樹脂成形のすべてを把握しなくてもOK。その代わり、加工側とルールの取り決めを行おう。

» 2010年06月02日 00時00分 公開
[國井良昌/國井技術士設計事務所(Active Design Office),@IT MONOist]

当連載の登場人物

甚

根川 甚八(ねがわ じんぱち)

根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん

良

国木田良太(くにきだ りょうた)

ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生のイマドキな若者。機構設計者。通称、良君


編集部注* 本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


 第4回の「樹脂部品設計のお役立ち小道具『底抜き』」はいかがでしたか? 樹脂設計で多用する小道具のうち、代表的な「底抜き」の設計サバイバル術を伝授しました。まずは、これをしっかりと復習しましょう。

今回は「加工ルール」を紹介していきます。まさしく、「ベテラン設計者が教えてくれないワザ」です。ご期待ください。

甚

べらんめぇーっ!! 『イス取りゲーム』は幼稚園でやれっつうの! 社長のイスは1つしかねぇんだからよぉ。


良

甚さん、甚さん……どうしたんですか! ……しかし前回の荒れ方はひどかったよなぁ、ハァ……。


 根川製作所の事務所で、いつものように“甚さんの大特訓”が始まろうとしていますが、甚さんの機嫌がよくありません。その原因は、甚さんがお昼休みに見たテレビのニュースのようです。

甚

俺たち、日本人の心は、桜と富士山にある。特に、通年で富士山は日本の象徴、日本人の心よ! この名を汚すヤツは江戸っ子じゃねぇっつうの。あん? そうだろうがぁ、院卒?


良

ハイ! 僕は、富士山麓大学の院卒です。“富士”の名の付いた、とても素晴らしい大学でした。


甚

大日本帝国の経営者よ、範を示せ〜! 美しい桜と悲しい桜を理解しろ〜!


良

それにしても、新聞で何度か報道された『社長のイス取りゲーム』は、僕ら若手技術者には、大顰蹙(ひんしゅく)でしたよ。前回同様、日本企業の社長ってこんなもんかって、ガッカリ。


甚

そんなやつらに“モノ作り、モノ作り”っていわせねぇぜぃ! “罪(ツミ)作り”じゃねぇかい、あん?


良

ウマイ! 座布団……じゃなかった、ホッピー1杯! 大不況だからこそ、範を示してほしいですよね!


甚

さすが、院卒の良君! たまには、反面教師も必要だ。オメェの上司がそうか? 富士という名を背負うなら、覚悟しろ。しくじったら切腹だ! 分かったらハイといえ! これは命令だ!


良

ハイ! 僕も、富士山麓大学 大学院の卒業生として、プライドを持っています。 しかも、主席で卒業したんですよね。エッヘン!


甚

べらんめぇ〜〜〜!! 何度いったら分かるんだ。設計者は、職人だ。学歴も主席も関係ねぇ。実務で勝負だ。実務を身に付けるには自覚が必要だ。分かったら、『ハイ!』といえ!


良

ちょ、ちょっと……それは……。


 甚さんの困った発言に、良君はタジタジ……。学歴は関係ないとしても、設計者に学問は必須です。学問の基礎知識の上に、実務経験が本人の努力に比例して蓄積されていくものです。

 今回は、学問と実務の違いにも触れていきましょう。まず、学校の教科書やカリキュラムでちょっと困るのは、第2回でも紹介した分析結果です(図1)。

図1 電子機器における機械系部品のコスト分析と部品点数分析

出典:『ついてきなぁ! 加工部品設計で3次元CADのプロとなる!』(日刊工業新聞社刊 )より

 筆者は、隣国の企業にてEV車の「超低コスト化設計」を指導していますが、この図1にほぼ当てはまりました。 何度も記載した言葉ですが、即戦力の技術者となるためには、「板金」と「樹脂」に精通することが早道です。

 しかし、学校では、板金と樹脂に関するカリキュラムはほとんど見当たりません。その証拠に製図における事例でも、金属切削によるシャフトや鋳物の図面の掲載がほとんどであり、板金は数%以下、樹脂の図面に至っては、皆無といっても過言ではありません。

 学校は、「学問を教えるところであり、実務は教えない」といい切ってしまう教育関係者もいますが、納得したくてもこれでは、隣国の工業国に完ぺきに追い越されます。いや、すでに追い越されています。

 ここで、技術者が即戦力となるためのポイントを以下に示しましょう。

  • 板金と樹脂の設計に精通すること
  • 樹脂部品設計なら、射出成形に精通すること
  • 徹底した設計模倣をすること
  • 模倣をしてはいけない個所を見抜く「目利き力」を持つこと
  • 設計側と加工側のルールを順守すること
良

甚さん、『樹脂部品設計なら、射出成形に精通すること』とは、どういう意味ですか?


甚

ユーハバ、グッド・クエスチョーン(You have a good question)! いい質問だ。先週、エリカちゃんからも、同じ質問で携帯メールをもらったところだ。


良

えっ? エリカちゃんは、甚さんの携帯メルアドまで知っているのですか?


甚

当たり前だ! 設計力は、オメェより上手だから、彼女の方がどちらかといえば、育てがいがあるからなぁ。そんじゃあ、説明するぜぃ!」


良だめ

……僕も、エリカちゃんの携帯メルアド、知りたい。


射出成形だけにフォーカスする

 樹脂に関する書籍やセミナーでは、ありとあらゆる加工法が登場します。まるで全部が重要、全部を覚えろと誤解してしまうほどです。それは学問としては決して間違いではないのですが、実務としては少々、非効率です。少なくとも優先順位を把握しましょう。それでは、図2を見てみましょう。

図2 樹脂加工における使用頻度の順位(『ついてきなぁ! 加工知識と設計見積り力で「即戦力」』日刊工業新聞社刊より)

 電子機器産業、精密機器産業、そして、EV車に使用される樹脂のなんと約77%は「射出成形」で製造されます。即戦力の立場からは、「射出成形」だけを徹底して学べばよいのです。ほかの成形法を学ぶ時間があるならば、より一層、「射出成形」に精通してください。

良

なるほど! 僕も、射出成形に関する情報を優先的にかき集めます。エリカちゃんには負けたくないし、突然冷たくされるのもごめんだし。


甚

その心よ! 勉学も彼女も、全力を尽くして手に入れろ! これは命令だーっ!


良

それでは、甚さん! 次に『設計側と加工側のルールを順守すること』に関して、教えてください。ゼシ、お願いします。


 「ルール」とは一体、何か? 次のページではその内容を明かしましょう。

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