もう“試作だけ”じゃない 「最終製品」「量産」から見るAMの現在地と未来メカ設計 イベントレポート(1/3 ページ)

ストラタシス・ジャパンは、ユーザー事例や最新情報を紹介するプライベートセミナー「ストラタシス・デー」を開催した。本稿では、セミナーに登壇した八十島プロシード、キャステム、m-techの3社による講演内容をダイジェストで紹介する。

» 2025年06月25日 07時00分 公開
[長島清香MONOist]

 ストラタシス・ジャパンは2025年6月6日、ユーザー事例や最新情報を発信するプライベートセミナー「ストラタシス・デー」を開催した。今回は、八十島プロシード、キャステム、m-techの3社が登壇し、それぞれの現場におけるAM(Additive Manufacturing:積層造形)技術の活用状況について、具体的な事例を交えて紹介した。

ストラタシス・デー(1)ストラタシス・デー(2) ストラタシス・ジャパンは2025年6月6日にプライベートセミナー「ストラタシス・デー」を開催した[クリックで拡大]

信頼されるAM部品へ X線CTを活用した検査により品質を担保

 八十島プロシード 営業本部 統括責任者の久保拓也氏は、「FDMを中心とした大型造形品と、AMの最終製品適用へ向けた取り組み」と題して、社内におけるAM事業体制や大型造形の事例、最終製品製造における品質保証体制などを紹介した。

八十島プロシード 営業本部 統括責任者の久保拓也氏 八十島プロシード 営業本部 統括責任者の久保拓也氏

 八十島プロシードは1983年創業の、樹脂切削加工を主軸とする部品メーカーである。高耐熱/高強度なスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)の加工を得意とし、半導体分野を中心に部品を提供している他、医療分野では人工関節などの製造にも取り組んでいる。

 同社が2011年に3Dプリンタを導入した背景について、久保氏は「切削加工を本業とする当社にとって、3Dプリントは対極にある技術」としながらも、「両方を扱うことで、少量かつ複雑な部品ニーズにも対応できる。その結果として、お客さまにとって最適な加工方法を提案できる存在になれると考えた」と説明する。

 同社は、神戸に構える専用施設「神戸 Fab.」にAM設備を集約している。Stratasys製のFDM(熱溶解積層)方式3Dプリンタ「Fortus F900」「Fortus 400mc」「Fortus 250mc」、ポリジェット方式の「J750」をはじめ、粉末焼結積層方式(SLS)やマルチジェットフュージョン(MJF)方式など、30台以上の造形機と約20人のエンジニアを擁し、設計から出力、検査、出荷までを一貫して対応している。

 同社の強みは、80年以上にわたって蓄積してきた切削加工技術と、AMに最適化された設計ノウハウの融合にある。現在も社内で活躍する熟練工による「匠の技」は、3Dプリントの設計/造形にも随所で生かされている。

 近年の事例としては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進める国際宇宙ステーション(ISS)向け無人補給船「HTV-X」に使用されるエアダクト部品を、PEI(ポリエーテルイミド)系の高性能熱可塑性樹脂「ULTEM 9085」で造形、納品した実績がある。

高性能熱可塑性樹脂「ULTEM 9085」で造形したダクト部品 高性能熱可塑性樹脂「ULTEM 9085」で造形したダクト部品[クリックで拡大]

 この他にも、3000×2000×249mmの大型製品を11パーツに分割し、「Fortus 900」で±1mmの精度で造形。組み立てから納品まで一貫対応した事例も紹介された。複雑な鋳物形状についても、3Dスキャンによって再現したという。

 品質保証の面では、全ての造形品に検査工程を設けており、FDM造形品にはカールツァイス製の工業用X線CT「ZEISS METROTOM」を用いた非破壊検査を実施。粉末造形品についても、CTスキャンによって内部のサポート材残留を確認する他、画像測定器、CMM(3次元測定機)、引張試験機などを用いて多角的に品質評価を行っている。医療や宇宙分野向けの製品では、工程表や材料証明書の発行にも対応し、「信頼できる工業部品」としての品質を担保している。

八十島プロシードでは、X線CTを用いてFDM造形品の非破壊検査を行っている 八十島プロシードでは、X線CTを用いてFDM造形品の非破壊検査を行っている[クリックで拡大] 出所:八十島プロシード

 講演の最後に久保氏は、「想像を創造する技術がここにある」という同社のモットーを紹介し、「デジタルとアナログの技術を融合させながら、社名の“プロシード”が示すように、製造業の次なるイノベーションを前進させていきたい」と語った。

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