m-tech 3D-Labo事業部 代表取締役の松本圭司氏は、「AM技術を用いたリプロダクトパーツ販売への道」と題し、3Dプリンタを活用した供給終了部品の製造/販売に関する取り組みと今後の展望について語った。
m-techは、2002年に京都市伏見区で開業したバイクショップだ。バイクの販売に加え、オリジナル部品の製造/販売も手掛けており、代表の松本氏自身がレースチームを運営している。鈴鹿4時間耐久ロードレースでの優勝経験もあり、現在も自社製パーツをレースチームに供給するなど、現場視点のモノづくりを重視している。
近年、同社が注力しているのが、既にメーカーでの生産が終了した部品を復刻する、いわゆる「リプロダクト製品」の開発である。中でもゴムや樹脂製の部品は、金型費用やロット数の制約により再生産が難しいケースが多く、少量多品種に対応可能な製造技術が求められていた。
こうした課題に対し、松本氏が着目したのが、Stratasys製のフォトポリマー方式3Dプリンタ「Origin One」だ。実機を見学した際、とりわけ印象に残ったのは自転車用グリップのサンプルだったという。松本氏は「その感触にまず驚き、『こんなものが3Dプリンタで作れる時代なのか』と衝撃を受けた。最終製品として使用できるクオリティーに確信を持ち、導入を決意した」と振り返る。
その後、補助金の活用も後押しとなりOrigin Oneの本格導入に至ったが、バイク部品は人命に関わるため、慎重な材料選定と評価が求められた。手始めに、反応性ウレタンフォトポリマー樹脂「Ultracur3D ST45」で試作をしたところ、高熱により溶着することが判明した。他方、高剛性/耐熱フォトポリマー「LOCTITE 3D IND403」に関しては、要件テストはクリアしたものの、装着時に砕けてしまうトラブルに見舞われた。設計変更と試験を繰り返しながらも思うような結果が得られない中、タイミングよく発売された新素材「Somos WeatherX 100」と出会い、ようやく完成品としての形にたどり着くことができたという。
現在は、エラストマー材料「LOCTITE 3D IND402 High Rebound」を用いたバイクのタンククッションラバーなどの製作にも取り組んでいる。また、同じくエラストマー系の材料「P3 Stretch 80」のテストにも意欲的であり、松本氏は「新しい材料が登場することで、同じ形状でも異なる硬さの製品を作れるようになる。これはAM技術が今も成長を続けており、可能性が無限であることの証だと感じている」と語る。
今後は、AMによる個別最適設計をレースシーンにも適用していく予定で、「グリップ形状の最適化を考えている」と松本氏は展望を示した。
セミナーの冒頭で、ストラタシス・ジャパン 代表取締役社長のSunil Sharma(スニール・シャルマ)氏は、「AMは、もはや実験段階の技術ではなく、実用的な産業技術として確かな地位を築いている。さらに、持続可能性の観点でも意義は高まっており、サプライチェーンの最適化やリスク分散にも寄与する。AMは未来の夢の話ではなく、既に目の前にある現実の技術だ」と語っていた。
その言葉の通り、AM技術の実用性と可能性が、3社の具体的な取り組みを通じて明確に示されたセミナーであった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.