検証で見えた「AirShaper」の真価 CFDの民主化は信頼性と拡張性からAirShaperとは? その実力を拝見(3)(1/4 ページ)

CFDソフトウェアは設計現場においても徐々に普及しつつあるが、導入コストや操作の難しさから、気軽に扱える環境は依然として限られている。そうした中で登場したのが、クラウドベースのCFD解析サービス「AirShaper」だ。本連載ではその実力と可能性を、実際の使用感とともに検証する。第3回は、AirShaperの“信頼性”と“拡張性”に焦点を当て、その真価を探る。

» 2025年11月13日 08時00分 公開

振り返り:「手軽さ」と「技術」の先にあるもの

 これまで2回にわたり、SaaS型CFD(Computational Fluid Dynamics/数値流体力学)解析サービス「AirShaper」の徹底レビューをお届けしてきました。

 第1回では、従来のCFD解析が抱えていた「高額なライセンスコスト」「高度な専門知識の要求」「ハイスペックなハードウェア依存」という“3つの壁”を背景に、AirShaperがそれらを打ち破る可能性/ポテンシャルに触れ、簡単なAirfoil(翼断面形状)を用いた実際の使用フローを紹介しました。

 続く第2回では、筆者自身がeVTOL(電動垂直離着陸機)の3Dモデルをアップロードし、実際のワークフローを体験しました。そこで焦点を当てたのが、「手軽さ」と、それを支える「自動化技術」です。

 解析における前処理、特に元のジオメトリの編集に時間がかかったり、精度と計算速度のバランスを考慮したメッシュ生成に苦労したりすることは珍しくありません。しかし、AirShaperでは、その工程を非常に迅速かつ手軽に実行できることが確認できました。

 「閉じていない、あるいは面が交差しているといった、いわば“いいかげんな”STLデータをそのまま投入できる利便性」「メッシュ生成というCFD最大の難関を『適応型メッシュ細分化(AMR)』によって自動化したこと」「計算の安定性を『自動収束検出』で判断し、信頼性の高い区間で結果を平均化するインテリジェンス」――。これらは、AirShaperが単なる“簡易ツール”ではなく、OpenFOAMをベースにしたロバストな技術基盤を備えていることを裏付けているといえるでしょう。

 とはいえ、ここで重要な疑問が浮かぶかもしれません。それは、「これほど自動化されていて手軽なツールが出す結果は、果たしてどの程度信頼できるのだろうか?」、あるいは「この手軽さを、設計者やエンジニアは具体的にどのように活用すべきなのだろうか?」という点です。

 例えば、第2回で筆者が解析したeVTOLモデルの抗力係数(Cd)も、その信頼性が担保されていなければ、単なる「それっぽい数字」に過ぎません。もちろん、これはソフトウェア側の問題だけでなく、使用者側においても、妥当な解析モデルや条件が設定されているかどうかに左右されます。

 最終回となる本稿では、この根本的な問いに答えるために、AirShaperが自ら公開している「Validation(検証)」と「Cases(事例)」を掘り下げます。そして、このツールが切り開くCFDの未来、すなわち真の“CFDの民主化”とは何なのかを、筆者なりに考察していきます。

AirShaperの実力(1)――結果は「信頼」できるか?

 「手軽なツールは精度が低い」――これは、多くのエンジニアリングSaaSが直面している、根強い偏見かもしれません。簡単なソフトウェアは設定が非常に容易である一方、ユーザー自身がパラメーターをチューニングできる余地はほとんどありません。AirShaperもその点では同様です。

 エンジニアとしては、ツールの自動化がどれほど進んでいても、信頼に足る結果が得られなければ意味がありません。CFD解析において、その信頼性を担保する基準は「実測値(風洞実験など)」との比較にあるといえるでしょう。

 この点において、AirShaperは誠実であるという印象を筆者は持ちました。自社Webサイト上では、解析精度が第三者による客観的なデータとどの程度一致しているのかを示すValidation(検証)ページを、詳細に公開しています。

ケーススタディー:「Tesla Model Y」の風洞実験との比較

 説得力のある事例の1つが、「Tesla Model Y」を対象とした風洞実験との比較検証です。

 実車の風洞実験(CFD-Onlineより)で得られた抗力係数(Cd)は0.291でした。これに対し、AirShaperは全く同じ形状の3Dスキャンモデル(ノンマニホールドデータ)を用いて解析を行い、Cd=0.298という結果を得ています。その差は2.4%です。一般的な流体解析では、誤差が5%以内であれば十分な精度とされます。そう考えると、この誤差も十分に満足のいくレベルといえるでしょう。

 さらに注目すべき点は、Cd値という単一の数値だけではありません。AirShaperの解析結果は、車体表面の圧力分布や流れの剥離パターンといった点でも、風洞実験の結果と高い相関性を示しています。

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