製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は「『なんかダサい』は設計で直せるのか?」をテーマに、デザインの中核要素の一つである「スタイリング」を構造的に掘り下げて解説する。
製品を見たときに「カッコいい」や「ダサい」と、瞬間的に感じることはないでしょうか。おおよそそれらは、形や色など、製品の見た目の印象から生じる感覚です。デザインの文脈では、そうした製品の形や色のことを総称して「スタイリング」といいます。
多くの人の認識の通り、スタイリングを良くすることは、製品開発においてデザインが担う役割の一つです。ときに、スタイリングは単なる“見た目の装飾”と誤解されることも少なくありません。しかし、B2C製品/B2B製品にかかわらず、スタイリングがもたらす付加価値は、想像以上に大きいものです。
どれほど優れた性能や機能を持っていても、スタイリング次第では「目に留めてもらえない」「選ばれない」「使いにくい」といった事態に直結します。逆に言えば、適切なスタイリングを施すことで、初めて製品は市場に存在感を示し、ユーザーに“使い心地の良さ”や“所有する喜び”を与えることができるのです。
スタイリングを向上させるには、高いデザイン的な技能が必要なのは間違いなく、完成度の高い製品の実現には、熟練のデザイナーの存在が不可欠です。しかし、「少しでも自身が手掛ける製品をカッコよくしたい」「少しでもスタイリングの原理原則を理解したい」と感じている設計者も多いはずです。
果たして、スタイリングとは何なのでしょうか? 人は何を見て、「カッコいい」とか「ダサい」と感じているのでしょうか?
本連載で過去に取り上げてきたように、「デザイン」という言葉の意味は広義であり、アイデア発想、UX(ユーザー体験)設計、ブランド戦略など多岐にわたりますが、本稿では、デザインの中核要素の一つでもあるスタイリングを構造的に掘り下げて、解説していきます。
スタイリングが人に与える感覚は、偶然の産物ではありません。スタイリングを分解すると、1.造形、2.配色、3.表記/配置の3つに大きく分けることができます。これらは独立した要素にも思えますが、制約がないのであれば、この順番で考え、スタイリングの完成度を高めていきます。
もちろん、これら3つの要素以外にも、「素材/質感」や「コンテキスト(一貫性)」など、補助的な要素もスタイリングの構成要素として考えられます。ただ、デザインの専門家でないのであれば、おおよそこの3つに配慮すれば十分です。
この3つの要素こそが、人が「なんかカッコいい」「なんかダサい」と感じる背後にあるメカニズムそのものであり、これらの要素を理解できれば、再現性のあるスタイリングが可能になります。以降で、それぞれを順番に解説していきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.