NTNは、独自開発した「微細塗布装置」を用いて、iPS細胞由来心筋細胞を実験用プレート上の狙った位置に適量だけ塗布するバイオプリンティング技術を発表した。
NTNは2025年11月18日、独自開発した「微細塗布装置」を用いて、iPS細胞由来心筋細胞(以下、iPS心筋細胞)を実験用プレート上の狙った位置に適量だけ塗布するバイオプリンティング技術を発表した。
同社が電子部品分野で培ってきた微細塗布技術をライフサイエンス分野へ応用したもので、定位置かつ適量で細胞を配置(播種)できることから、手作業ではバラつきが生じやすかった細胞配置の再現性を高め、実験に必要な細胞量の削減にもつながるとしている。
従来の細胞配置作業では、スポイトや滴下方式による手作業が一般的だったが、位置ずれや注入量の不均一が避けられず、評価データの安定性に課題があった。今回の技術は、微量かつ高速/高精度な塗布を得意とする同社の微細塗布装置を適用することで、こうした課題の改善を図るものだ。
NTNは、新規事業の創出/育成に向けて研究開発資源を投入する6つのターゲット分野を設定しており、今回の技術はその1つであるライフサイエンス分野に向けた取り組みとなる。
同社が開発してきた微細塗布装置は、液晶リペア工程で培った技術を起点に、半導体やセンサー領域における有機材料や接着剤などの微量塗布を精密に行うために発展してきた。数pL(ピコリットル:1兆分の1L)の液滴を1回当たり0.1秒で高速かつ±15μm以下の精度で安定して塗布でき、粘度の高い材料(100Pa・s)でも扱える点が特長である。
液滴が針先に保持されるのは表面張力が働くためで、自重による液垂れが起こらない。さらに、押し出し機構を用いない構造により、液量制御のバラつきが小さく、安定した微量塗布が可能となる。
細胞配置に用いられる一般的な手法としては「ディスペンサー方式」や「インクジェット方式」があるが、いずれも圧力を利用して液体を吐出するため、高粘度材料ではノズル詰まりが起きやすい他、細胞にストレスがかかることが課題だった。また、加圧による滴下量の安定化が難しく、塗布量のバラつきにつながる場合もあった。
これに対して、微細塗布装置が採用する「塗布針方式」は液体を押し出さず、針先に付着させて転写する構造であるため、「目詰まりが少なく、細胞への負担を抑えながら高粘度材料を扱える」(同社)という利点がある。
微細塗布装置は、針先を液面に接触させて材料を引き上げる「液供給」工程、表面張力により液滴を針先で保持する「液保持」工程、対象面に接触して液滴を転写する「液塗布」工程、液糸切れを抑えて針先を分離する「液脱離」工程によって、数pL単位の微細な塗布を安定して繰り返すことができる。
iPS心筋細胞を用いた評価では、まず多電極アレイ(MEA:直径3〜6mm×深さ10〜13mmのマルチウェル底部に電極を設けたプレート)で電位波形の測定を行い、細胞配置が測定結果に与える影響を検証した。
MEAは、電極位置に対する細胞の配置位置が波形に直結するため、位置精度が重要となる。微細塗布装置による繰り返し位置決め精度は±15μm以下であり、電極中央への配置が安定した。
手作業では位置ずれによって波形形状が大きく変化する課題があったが、塗布位置の安定化により電位波形のバラつきが減少し、細胞を狙った位置に確実に配置できること、測定データの再現性が向上することが立証された。
次に、マルチウェルプレートを用いて直径1mm程度の心筋組織を形成したところ、組織径のバラつきを示すCV(変動係数)値は3.8%と低く、均一な組織形成が可能であることが確認された。
塗布領域を限定して適量のみを配置できるため、滴下量の不均一による組織サイズのバラつきが抑えられた。また、塗布領域が小さいことで、必要な細胞量は直径3mm領域と比較して面積比で約80%削減できた。
さらに、圧力をかけずに液滴を転写する塗布方式により細胞へのストレスが小さく、細胞生存率が90%以上と高く維持されることも確認されている。高価なiPS細胞の使用量を抑えられる点とともに、実験コストの低減に寄与する結果が得られた。
今回の発表では、iPS心筋細胞を対象としたMEAでの電位波形計測や、マルチウェルプレートでの心筋組織形成を通じて、微細塗布装置による細胞配置の有効性が具体的に示された。同社は「細胞を狙った位置へ適量だけ安定して配置できる点が、薬効評価や細胞応答解析など位置精度が要求される評価系の再現性向上に寄与する」と説明しており、ライフサイエンス分野への技術応用を進める上で重要な取り組みとして位置付けている。
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