「なんかダサい」は設計で直せるのか? 設計者が知っておきたい“ダサさの正体”設計者のためのインダストリアルデザイン入門(15)(2/3 ページ)

» 2025年09月03日 08時00分 公開

造形――かたちで印象をつくる

 最初に考えるべきは「造形」、つまり製品の“かたち”です。人は製品を見た瞬間に、無意識にその輪郭やシルエットから印象を受け取ります。どんなに優れた機能があっても、造形に違和感があれば「なんかダサい」と判断されてしまうのです。そこで、造形を考える際の視点をいくつか紹介します。

シルエットの印象

 製品を遠目で見たときにまず目に入るのは、細部ではなく全体の輪郭です。シルエットが「締まっている」か「間延びしている」かで、第一印象は大きく変わります。自動車や家電などの工業製品では、このシルエット設計が「力強さ」「軽快さ」「柔らかさ」といった性格を決める要素になっています。例えば、柔らかい印象にしたければ角が丸いかたちにし、鋭い印象にしたければ、意図的に稜線が目立つようなかたちにします。

比率とバランス

 工業製品において、人は整然とした造形を好みます。整然としたかたちをつくる際に考慮すべきは、かたちの対称性、均一性、そして縦横などの比率です。人間は「黄金比」や「白銀比」といった比率に、自然な美しさを感じます。たとえ複雑な形状であっても、主要な寸法比率のバランスがとれていれば「整っている」と感じ、逆に比率が崩れると「違和感」につながります。人間の感覚は想像以上に鋭いため、中途半端に長さがそろっていないだけでも、すぐに違和感を覚えます。

面構成と緊張感

 不自然に面が多かったり、分割線が多い造形は“情報過多”になり、極端に面が少なく、単調でメリハリのない造形は「のっぺり感」を与えます。一方、緊張感のある造形は、直線と曲線、凹と凸、細部と大局が適切に配置され、全体にリズムがあります。造形の設計にあたり、「この面は本当に必要か?」と問い直すことが、ダサさを避ける近道です。

配色――色そのものより「比率」が決め手

 造形の次に考えるのは「配色」です。多くの人が「この色は好き/嫌い」と、色そのものに注目しがちですが、実際に印象を左右するのは配色の比率や使用する色数、トーンのバランスなどです。色それ自体は奥深く専門性の高い領域ですが、比率や色数については、原理原則さえ理解すればコントロールすることも難しくはありません。ただし、法令で定められた構成要素の色については、その基準に従って使用しましょう。

面積比率で決まる印象

 例えば、白と赤の2色を使った製品でも、赤を1割に抑えるか、7割にするかで印象はまるで違います。1割なら、赤は白い製品の「アクセント」として感じられますし、7割なら赤い製品だと認識されます。もし、色に関する専門性がないのであれば、有彩色を複数使ったり、大きな面積で使わないことをお勧めします。有彩色の数や面積が多いと、やぼったくなりがちで、これをコントロールするには高い専門性が必要になるからです。また、工業製品において配色は部品の色そのものであることも多いため、配色の比率を変える際には、造形ないし部品分割を変える必要がある場合も少なくありません。

トーンバランスによるメリハリ

 もう一つ見逃せないのが、色の明度/彩度による「トーンバランス」です。例えば、黒やグレーを使用する場合でも、使用するグレーの明るさや組み合わせ方によって印象は大きく変わります。濃淡の差をしっかりつければ立体感やメリハリが生まれ、逆に全てが同じトーンだと、シンプルで一体感のある印象になります。ファッションにおいて上下のコーディネートに明暗差をつけると引き締まって見えるのと同じで、製品のスタイリングにもこの原理が適用されます。トーンバランスをどのように調整するかは、どのような印象を与えたいか次第です。

色そのものより「比率」が決め手に 色そのものより「比率」が決め手に 出所:iStock/Stepan_Bormotov

ブランドやシリーズでの一貫性

 色に関して別の観点で重要なのは、製品単体だけでなく、コーポレートブランドやシリーズ全体で配色の一貫性を持たせることです。企業全体やシリーズ全体で同じ配色ルールを守ることで“ブランドらしさ”が生まれ、市場での存在感が増します。逆に、シリーズ内で色のルールがバラバラだと、「安っぽさ」や「場当たり感」を感じさせることになってしまいます。

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