最後に取り上げるのは、「表記/配置」です。ロゴやスイッチ、ラベルの位置は、製品全体の印象を大きく左右します。
製品を手に取った人が最初に注目するのは、「どこに何が書かれているか」です。ラベルやロゴ、スイッチ周りの文字表記は、ユーザーの視線を無意識に誘導します。例えば、大きくやぼったく見える平面にロゴを置くだけで、製品はキュッと締まって見えます。また、必要な操作ラベルが分散して配置されていると、視線が散り、ユーザビリティが落ちるだけでなく、製品全体の印象もぼやけてしまいます。一方で、関連性の高い操作ラベルをひとまとまりに配置すれば、視線の流れを留め、理解がしやすくなるだけでなく、製品の印象向上にもつながります。
フォントやアイコンのスタイルが統一されているかどうかは、想像以上に全体の印象を左右します。例えば、一部だけ異なるフォントやサイズが混ざると「チグハグな印象」になり、製品の完成度を下げてしまいます。逆に、全ての表記を統一すれば、ユーザーは安心感を得て、製品そのものが洗練されて見えるのです。設計では「取りあえず読めればいい」と軽視されがちですが、この一貫性こそが“カッコよさ”を支える基礎となります。
ロゴサイズは、ブランドの姿勢を如実に表します。さりげなく小さいロゴは、繊細で丁寧な印象を与えますが、大きなロゴは必ず見てもらうことができます。例えば、ハイエンド家電や高級車のロゴは控えめな大きさで配置されることが多く、製品自体の完成度に自信があることを示しています。逆に、知名度を高めたい新興ブランドでは、あえてロゴを大きくして“覚えてもらう”ことを優先する戦略もあります。いずれにしても重要なのは、「どのような意思を込めてこの大きさにするのか」という明確な判断です。ロゴは単なる装飾ではなく、製品のブランドメッセージそのものなのです。
“カッコよさ”は、偶然の産物ではありません。造形、配色、表記/配置というスタイリングをつかさどる3つの要素を意識し、それぞれを論理的に積み重ねていけば、“カッコよさ”は再現性を持って作り出すことができます。
設計者が“ダサさの正体”を理解し、スタイリングの視点を持ち込めば、製品は市場でより選ばれるものとなり、ユーザーに長く愛される存在となります。特に、性能や機能だけでは差別化が難しい業界では、“見た目の完成度”が競争優位性を左右します。造形のバランス、配色の比率、表記の整理――これらを押さえるだけでも、製品の印象は格段に変わります。
デザインにおけるスタイリングは、感覚的な“センス”ではなく、実務に応用できる“技術”です。本稿をきっかけに、読者の皆さんが日々の設計の中でスタイリングの視点を少しでも取り入れ、より「カッコよく」「選ばれる製品」を生み出せるようになれば、きっと製品開発はもっと楽しくなるはずです。 (次回へ続く)
菅野 秀(かんの しゅう)
株式会社346 創業者/共同代表
株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他
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