「デザイン保護に意匠登録は必須」と人は言うけれど……設計者のためのインダストリアルデザイン入門(13)(1/5 ページ)

製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回はXで見掛けたある投稿を切り口に、意匠権のメリット/デメリットや費用対効果をどう考えるべきかについて深掘りする。

» 2025年01月08日 06時00分 公開

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「猫もふ」は意匠権を侵害していたのか?

 少し前に、X(旧:Twitter)でとても興味深い投稿を見掛けました。それは、ユカイ工学 代表の青木俊介氏の投稿です(図1)。

ユカイ工学 代表の青木俊介氏の投稿 図1 ユカイ工学 代表の青木俊介氏の投稿[クリックで拡大]

 ご覧の通り、フェリシモの製品「しっぽ付き! 猫のおしりのようなもふもふクッション」(以下、猫もふ)が、ユカイ工学の意匠権を侵害しているのではないかと疑問を呈しているようです。

 恐らく、青木氏が示唆しているユカイ工学社の意匠権とは、「意匠登録1603708」のことでしょう。

 この意匠権は、ユカイ工学が販売する「Qoobo(クーボ)」という製品に活用されています。ご覧の通り、確かにそっくりですね(図2)。

ユカイ工学が販売する「Qoobo」 図2 ユカイ工学が販売する「Qoobo」[クリックで拡大] 出所:ユカイ工学

 ことの顛末(てんまつ)から言ってしまうと、本件は、青木氏の投稿を受けてか、フェリシモが「猫もふ」の販売を中止し、同社がユカイ工学におわびをする形で終幕しています。

 なお、「猫もふ」はフェリシモの当該投稿時点では既に販売されていた製品です。従って、フェリシモは開発投資を終えているだけでなく、多くの在庫を抱えている状況であったと想像します。こういった状況での販売中止の経営判断は簡単でなかったと思います。

 とはいえ、意匠権を侵害してるのであれば、販売中止の判断は自然だと思われるかもしれません。ただ、筆者が気になったのは、本当に「猫もふ」はユカイ工学の意匠権を侵害していたのだろうか、という点です。

 そもそも、意匠権の及ぶ範囲は「登録意匠物品等と同一・類似、かつ形態も同一・類似」と定義されています。つまり、2つの意匠の類否判断は“物品等”と“形態等”を総合的に見て行われるのです。

意匠権の効力範囲 図3 意匠権の効力範囲[クリックで拡大]

 このことを前提に、「猫もふ」とユカイ工学の意匠登録を比較してみます。

 まず、2つの製品の「形態が同一・類似」ということはいえそうです。何せ見た目がそっくりですからね。

 一方、2つの製品が「登録意匠物品等と同一・類似」といえるのでしょうか。

 「登録意匠物品」という言葉が指すものは、意匠登録において意匠と一緒に登録される具体的な物品のことを意味します。そして、これが意匠登録されたデザインの権利が適用される「物品」となります。

 ユカイ工学の意匠登録は意匠分類が「J0-2(ロボット)」であり、意匠にかかわる物品は「ぬいぐるみロボット」とされています。一方、フェリシモの「猫もふ」は「クッション」や「湯たんぽ収納具」などと定義できそうです。

 もし、上記の理解が正しいのであれば、意匠権侵害の論点は「ぬいぐるみロボット」と「クッション」の双方で、用途/機能的に共通している部分があるかという点になります。

 つまり、「ぬいぐるみロボット」と「クッション」の用途/機能的共通性が認められなければ、“物品が同一・類似”とは判断されず、いくら“形態が同一・類似”であろうとも、ユカイ工学の意匠権が及ばない可能性があるのです。

 一方、意匠権で守られずとも、著作権でデザインが守られる可能性もあります。しかし、今回のケースは形体がシンプルであるため、著作権の主張も難しい判断になると推察されます。

 いずれにしろ論争にはならずに、ことの顛末を迎えてしまいましたので、この論点に対する答えは闇の中です。

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