「デザイン保護に意匠登録は必須」と人は言うけれど……設計者のためのインダストリアルデザイン入門(13)(4/5 ページ)

» 2025年01月08日 06時00分 公開

意匠登録するかを慎重に検討すべきケース

 意匠登録を慎重に検討し、場合によっては意匠登録を見送る判断をすることが有益とされるケースを以下に挙げます。

1.デザインの寿命が短い製品の場合:
 技術トレンドの変化のスピードが速い製品は、デザインおよび製品自体の寿命が短いため、その間に模倣されるリスクも低くなります。こういった場合は意匠登録の費用が効果に見合わない場合があります。また、事業化の判断がまだされていない、試作検討で行ったデザインの保護についても、(将来大きくデザインが変更される可能性があるのであれば)同様です。

2.特許で製品の優位性が保護されている場合:
 製品の主要な機能や技術的な特徴が特許で十分に保護されている場合、意匠登録の必要性は低くなる可能性があります。特許の権利範囲が広く、意匠登録による権利化メリットが相対的に軽微になる場合は、意匠登録を見送る選択肢もあり得ます。

3.収益計画に対して意匠登録費用が見合わない場合:
 製品単価が低く、販売数量が少なければ、意匠登録費用が収益を圧迫する可能性があります。また、仮に模倣されたとしても、権利行使には一定の費用が必要になります。つまり、権利行使したとして結果的にマイナスになってしまうような事業規模のものは、そもそも意匠登録を見送るべきともいえます。

4.汎用(はんよう)的なデザインの製品の場合:
 既に広く普及している認知度の高いデザインとの差が軽微なデザインの場合は、意匠としての付加価値が小さく、意匠登録の必要性が低い場合があります。また、こういったケースでは意匠登録そのものの難易度が高く、意匠登録できたとしても、同様に軽微な意匠変更で権利が回避されてしまう可能性も否めません。

5.自社事業に影響しない物品の場合:
 意匠は、物品ごとに登録する必要があることは先に説明した通りです。自社が商品化している製品と異なる物品に対する形態の模倣を防ぐためには、その物品に対する意匠登録が必要になりますが、もし模倣された物品の影響が自社事業に対して少ないと見込めるのであれば、わざわざその物品でも意匠登録をする必要はないかもしれません。

意匠登録にかかる費用

 意匠の登録内容を物品、形態の観点でより広範囲で効果的なものにすることが重要なのはもちろんですが、それと同様に重要なのは意匠登録にかかる費用です。

 意匠登録にかかる費用は、自分自身で出願を行う場合と弁理士に依頼する場合とで異なります。しかし、読者の大半であろう企業人が弁理士を使わずに意匠登録するケースは一般的事業活動において非常にまれです。そのため、本稿では弁理士に依頼する場合に絞って解説します。

 以下、意匠登録に要するおおよその費用一覧です。なお、こちらの内容はどこか特定の弁理士事務所の料金を参照したものではなく、筆者の経験や複数の外部情報に基づき作成しています。

 印紙代や維持年金などの手続きにかかる費用は一律ですが、弁理士費用については依頼先によりますのであくまで参考としてご覧ください。もし、正確な費用を知りたい方は任意の弁理士事務所にお問い合わせください。

 国内出願に関する費用を表1に、外国出願に関する費用を表2にまとめました。

発生時期 項目 費用(目安) 備考
出願時 出願基本手数料 8万〜10万円
図面作成料 〜6万円 数量による
特許庁印紙代 1万6000円 非課税
中間処理時 応答費用 3万〜15万円 応答内容による
登録時 弁理士登録手数料/成功報酬 6万〜7万円
特許庁印紙代 8万5000円/年 非課税
権利維持年金納付 権利維持年金納付 1万6900円/年 非課税
納付手数料および期限管理費用 2万〜3万円 更新ごと
表1 国内出願(相場)

発生時期 項目 費用 備考
出願時 出願基本手数料 10万〜15万円
図面作成料 〜6万円 数量による
外国特許庁印紙代 2万円〜 非課税、出願国による
外国代理人費用 3万〜15万円 出願国による
中間処理時 応答費用 3万〜15万円 応答内容による
外国代理人費用 3万円〜 出願国による
登録時 弁理士登録手数料/成功報酬 3万〜4万円
外国特許庁印紙代 数万円/年 非課税、出願国による
外国代理人費用 2万円〜 出願国による
権利維持年金納付 権利維持年金納付 数万円/年 非課税、出願国による
外国代理人費用 2万円〜 出願国による
納付手数料および期限管理費用 2万〜3万円 更新ごと
表2 外国出願(相場)

 国内の出願では、出願から登録までの費用として、少なくとも20万〜30万円程度、維持費には年間数万円が必要となります。これに加えて類似意匠に関する調査を行う場合には、別途調査費用がかかる可能性があります。

 海外への出願(外国出願)となると、出願から登録までの費用として、少なくとも30万〜40万円程度、維持費として数万円必要となります。ただし、元となる国内出願がある場合は出願基本手数料や図面作成料の費用は抑えられます。また、もし複数の国へ出願する場合は「ハーグ出願」をすることでその費用を抑えることができますが、要件が複雑になるため、本稿では説明を割愛いたします。

 ちなみに、意匠は特許と異なり翻訳が必要な文量はわずかなので、翻訳費用が発生したとしても少額で済むケースがほとんどです。

 中間処理は、国内/外国いずれの意匠出願においても発生しない場合もありますが、基本的には発生するものだと見込んでおいた方がよいでしょう。

 また、拒絶査定が出て、それに対する不服申し立てを行うとなると「拒絶査定不服審判請求」をする必要があります。これにも数十万円の費用がかかります。

 特許登録に親しみのある方なら感じるかもしれませんが、意匠登録にかかる費用は特許登録と比べて比較的安価です。しかし、それでも事業規模によっては安いとはいえませんし、商品数や出願国が増えていけば、これが倍々となっていき、それなりにまとまった金額が必要となります。

 また、登録費用に比べたら維持費は微々たるものだと感じるかもしれませんが、これも意匠登録の数が100件、200件となると決して無視し難い費用になります。例えば、大手企業であれば登録意匠は2000件を超えることもありますので、意匠登録の維持だけで、何千万円、何億円とかかっているわけです。

 そして、実は忘れてはいけないのが、他社の意匠侵害の可能性を見つけ、権利行使することになった際の費用です。該当企業への通達や権利行使の手続きには弁護士費用が必要となりますし、裁判になれば時間とともに数百万円単位で費用が積み上がっていきます。従って、権利行使した結果、得られた賠償金や経済的効果が支払った弁護士費用に見合わない……といったことも十分にあり得るのです。

 ただし、「権利行使しても見合わないから権利化しなくてよい」とも言い切れません。なぜなら、意匠権は競合に対するけん制効果や、いざというときの交渉材料としても役に立つことがあるからです。

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