意匠登録には、メリットだけでなくデメリットも存在します。従って、意匠登録を行う前に、メリットとデメリットを理解し、慣例だけにとらわれず事業目線で最適な判断をすることが重要です。
意匠登録の主なメリットは、「独占排他権の獲得」「模倣抑制」「ブランド力強化」「権利活用による収益化」などです。
まず、登録された意匠には独占排他権が発生します。これによって、他者があなたの意匠と同一または類似の意匠を無断で使用した場合、製造、販売、輸出入などを差し止めたり、損害賠償請求を行ったりすることが可能になります。そして、独占排他権を持っていることは、競合他社へのけん制にもなるため、模倣品の抑制としても効果を発揮し、市場における競争優位性を高めることができます。
また、消費者は登録意匠表示が付与された製品を、より信頼性が高く、オリジナリティーのある商品として認識する傾向があるため、ブランド力の強化としても意匠登録が効果的に働くこともあります。
意匠権をライセンス化し、他社からその使用料を得ることも可能です。つまり、意匠権さえ押さえておけば、自社が製品として意匠を活用しない場合においても収益を生み出す可能性を秘めているのです。
主なデメリット、または留意点としては、費用、期間、保護範囲などが挙げられます。
意匠の出願、登録、維持をするに当たっては、申請手数料や登録料が発生します。また、これらの作業を弁理士に依頼する場合は弁理士費用も必要になります(具体的な費用については後述します)。
そして、出願から登録完了までに通常8〜10カ月程度の期間を要することにも留意が必要です。外国出願の場合はさらに期間が必要になる場合があります。登録されるまでの期間は権利行使ができないため、出願のタイミングは事業計画を考慮して決める必要があります。
さらに、先に挙げたように保護範囲は、登録された意匠と同一または類似する範囲のみに限定されます。わずかなデザインの違いでも保護の対象外となる可能性があり、権利行使が難しくなるケースもありますので、登録すれば必ずしも狙いのデザインが保護できるわけではありません。もし、全ての可能性を考慮して意匠登録をするとなれば、いくら費用があっても足りません。
製品を開発、販売する上で、デザインの保護が重要な行いである一方、先に挙げたように、費用対効果の観点から、意匠登録の必要性を慎重に見極める必要があります。では、意匠登録はどんなときに必要であり、逆に、どんな製品は意匠登録しなくてもよいのでしょうか。以下に、判断の観点をいくつか挙げてみます。
まず、意匠登録をすることが優先されるケースを以下に挙げます。
1.デザインが製品の主要な購買要因である場合:
ファッション、高級時計、デザイン家電など、意匠それ自体に高い付加価値があり、それが消費者の購買意欲をかき立てる場合は意匠登録が重要になります。また、単一の商品だけではなく、商品群で戦略的に意匠登録し、権利を守ることでブランドイメージを高めたい際にも意匠登録は重要な戦術となり得ます。
2.長期間にわたって販売が見込まれる製品の場合:
長期的な販売戦略を持つ製品は、短期的な商品転換が行われる製品に比べて、意匠登録の重要性が高くなります。長期で販売されればそれだけ模倣されるリスクが高まるため、長期的に安定した収益を確保するには意匠登録が必須です。
3.競争の激しい市場で類似商品が多い場合:
市場環境がコモディティ化しており、機能的な差別化が困難な市場では、インパクトのある意匠が差別化要素として効果的に働く場合があります。こういったケースにおいては、早期に意匠登録を行い、市場における優位性を確保することが重要となります。
4.海外展開を予定する製品の場合:
前述の観点に合わせて、同製品の海外展開を計画している場合は各製造販売国での意匠登録が必要です。もし、海外販売が数年先になる計画だったとしても、あらかじめ各国で意匠出願を行う必要があります。これは、後で出願しようとしても、自身の意匠登録が先行事例とされ、同様の意匠を海外で権利化できない場合があるためです。
5.デザインへの投資額が大きい場合:
大規模な収益を見越し、多額の費用をかけてデザインを開発した場合、そのデザインが模倣されてしまうことの損失は甚大となります。こういったケースにおいては意匠登録それ自体のコストは相対的に少なくなりますので、積極的に意匠登録をすべきです。
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