製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は「デザイン経営」の定義や特長、そして“なぜ企業経営にとってデザインが重要なのか”について詳しく解説する。
「デザイン経営(Design Management)」という用語を聞いたことがあるでしょうか。デザイン経営は、経営の意思決定や実行においてデザインの視点を取り入れる経営手法として、製造業に限らず、サービス開発や地方自治体の運営などにも活用されています。
国内では、2018年に経済産業省 特許庁から発信された「『デザイン経営』宣言」の中で紹介されたことで、広く知られるようになりました。また、連載第8回、第9回で取り上げた「デザイン思考」という用語も「デザイン経営」宣言の中で頻繁に使われており、デザイン思考はデザイン経営を実施するに当たってのツールとして紹介されています。
今回は、このデザイン経営について、その定義や特長、特に“なぜ企業経営にとってデザインが重要だと説明されているのか”を解説していきます。自社の経営や事業にデザインを取り入れたい方、デザイン経営について詳しく知りたい方は、ぜひ本稿を参考にしていただければと思います。
デザイン経営とは“経営の意思決定や実行においてデザインの視点を取り入れる経営手法”とされています。その源流は、1950年代後半、デザインの名門である英国の芸術大学院ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの教授たちにより提唱されたことにあるそうです。
1960年代、デザイン経営は米国で広く受け入れられるようになります。特に、IBMやP&Gはデザイン経営に積極的に取り組み、デザインを戦略的な資産として利用し、企業価値の向上に努めていたことでよく知られています。これらの企業は、製品の設計だけでなく、ブランディング、ユーザーエクスペリエンス(UX)、サービスデザインなど、企業運営のあらゆる面でデザインを活用し始めました。
では、デザイン経営に取り組むと一体何がうれしいのでしょうか。先に紹介した、経済産業省 特許庁による「デザイン経営」宣言には、以下のような記載があります。
「デザイン経営」とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営である。それは、デザインを重要な経営資源として活用し、ブランド力とイノベーション力を向上させる経営の姿である。(デザイン経営宣言 P6より抜粋)
つまり、デザイン経営に取り組む目的は「ブランド力とイノベーション力を向上させること」にあると説明されています。
そもそも、「ブランド」と「イノベーション」という用語は、具体的にどのような意味を持っているのでしょうか?
ブランドの第一人者であるDavid Aaker(デービッド・アーカー)氏によれば、“ブランドとは企業における資産であり、その価値は商品やサービスが消費者に提供する認識により定まる”とされています。
少し踏み込むと、このブランドの価値(ブランドエクイティ)は、ブランドの認知度、ブランドを見たときに連想するイメージ、ブランドに対する忠誠心(ロイヤリティー)の3つで構成されると定義されています。
たくさんの人が知っていて、良いイメージを持たれていて、多くの人に慕われているブランドが良いブランドであり、価値が高いブランドといえるのです。
一般的な解釈とは少しずれるかもしれませんが、イノベーションの概念を提唱したJoseph A. Schumpeter(ヨーゼフ・シュンペーター)氏によれば、“イノベーションとは市場に新しい組み合わせをもたらし、創造的破壊を引き起こすプロセスのこと”とされています。
端的に説明すると“技術やビジネスの組み合わせで革新的なものを作る行為がイノベーションである”ということです。つまり、“一から新しいものを作るのではなく、組み合わせが革新性をもたらす”というのが正しい解釈です。
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