AirShaperの信頼性は、特定の解析対象だけで担保されているわけではありません。以下に、代表的な検証結果を挙げます。
これらの結果から、AirShaperは自動車、航空、産業機械といった多様な分野で、専門家が求める「精度の担保」をクリアしているといえるでしょう。
第2回で筆者が使用した解析モデルには、元データの妥当性に一部課題がありました。しかし、モデルが適切であれば、こうした技術的裏付けによって初めて、解析結果を信頼性の高い設計データとして活用できるようになります。
AirShaperに限ったことではありませんが、シミュレーションを行う価値は、(今回のケースでは)単に空力特性を「知る」だけで終わるものではありません。シミュレーションを使う意義は、単なる可視化にとどまらず、設計者が「もっと良くしたい」と思ったとき、その先をサポートする「拡張性」にあるのではないでしょうか。
もし現在の設計に対して、「あと0.1%でも抗力を削減したい」という明確な目標があるなら、AirShaperは「自動形状最適化」という、さらに一歩進んだ機能を提供しています。
例えば、セスナ機の翼形状を最適化する事例では、翼の反りや厚みといった複数の設計パラメーターが空力特性にどのような影響を与えるのかを自動で計算し、抗力を最小化する(あるいは揚抗比を最大化する)最適な形状をシステムが探索します。
これは、単なる「解析ツール」を超え、設計者の意図をくみ取って形状を提案する「設計支援ツール」としての側面を持っていることを意味します。設計者は、この最適化結果を新たなインスピレーションとして、次の設計にフィードバックできるのです。
構造解析でも、近年はトポロジー最適化やジェネレーティブデザインといったテクノロジーの活用が進んでいますが、CFDの世界でも同様のアプローチが現実のものになりつつあります。テクノロジーによって設計者の探索がより効率化されるのであれば、使わない理由はないでしょう。
「SaaS型ツールは、Webブラウザ上で提供される機能しか使えないのでは?」という懸念を持つCFD専門家もいるでしょう。しかし、AirShaperはその点でもオープンです。第1回でも紹介しましたが、AirShaperで計算した結果は、オープンソースの可視化ツール「ParaView」でポスト処理が可能です。ParaViewはOpenFOAMユーザーにはおなじみのツールで、無償で利用できます。
AirShaperは、Web上のダッシュボードで可視化機能を提供するだけでなく、解析結果の生データ(OpenFOAM形式)をユーザーがダウンロードできるよう設計されています。
つまり、CFDのポスト処理(結果分析)における業界標準ツールであるParaViewにデータを取り込み、設計者がより詳細な分析を行えるということです。Web上では確認できない特定断面での流速分布や、複雑な渦構造の抽出、WebのUIではサポートしていない可視化、あるいは自社独自の評価指標による定量化など、解析の“深掘り”が可能になります。
ポスト処理に関していえば、「Webの手軽さ(設計者向け)」と「専門ツールとの連携(解析専門家向け)」という、一見相反するニーズをうまく両立しているといえるでしょう。
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