オートデスクは、米国テネシー州ナッシュビルで開催された年次イベント「Autodesk University 2025(AU 2025)」の発表内容を、日本のメディア向けに紹介する記者説明会を実施した。本稿では、基調講演、AIキーノート、製造領域の発表内容を中心に、AU 2025の主要トピックスを整理した。
オートデスクは2025年11月13日、同年9月16〜18日(現地時間)に米国テネシー州ナッシュビルで開催された年次イベント「Autodesk University 2025(AU 2025)」の発表内容を、日本のメディア向けに紹介する記者説明会を実施した。
説明会の冒頭、オートデスク 代表取締役社長の中西智行氏が、AU 2025の開催規模と日本からの参加状況について紹介した。
AUは毎年秋に米国で開催される同社のグローバルイベントであり、オンサイト参加者は約1万2000人超、オンライン視聴者を含む総参加者は3万4000人以上に上る。今回は日本から350人以上が現地参加し、前年の約300人から大きく増加したという。セッション数は500を超え、同社による講演だけでなく、世界中のユーザー企業による事例発表も行われる。
今回のAU 2025では、“デザインと創造(Design&Make)”で業界の常識を変革する「New Era Making」がテーマとして掲げられ、「AI(人工知能)」「データ」「サステナビリティ」の3つのキーワードを軸に、同社が目指すモノづくりの新時代に向けた取り組みが示された。
AIの取り組みについては、同社が10年以上にわたり研究開発を積極的に進めてきたことが紹介され、AI活用が次の段階にステップアップしている状況が示された。
2年前のAU 2023で「Autodesk AI」を発表したタイミングでは、「AutoCAD」や「Revit」などの既存アプリケーションをAIで拡張して“便利にする”ことを主眼に置いた取り組みが目立っていた。しかし、「今回のAU 2025では、自然言語などを介して“人間の作業をAIが肩代わりする”という、さらに踏み込んだレベルでのAI活用のビジョンが示された」と中西氏は説明する。
続いて、オートデスク 日本地域営業統括 技術営業本部 業務執行役員 本部長の加藤久喜氏が登壇し、Autodesk 社長 兼 CEO(最高経営責任者)のアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏による基調講演の内容を解説した。
アナグノスト氏の基調講演では、世界的な資源不足、労働力不足、サプライチェーンの混乱といった制約を提示した上で、それらを克服し“不可能を可能にする”ための方向性として「業界別クラウド」の重要性をあらためて強調した。そして、業界別クラウドを構成する「クラウドベース」「AIネイティブ」「エンドツーエンド」の3つの要素について説明が行われた。
クラウドベースとは、アプリケーションやデータをクラウド上に置くことでコラボレーションを促進し、管理/共有を容易にする環境を指す。AIネイティブは、従来の“人間がデータの活用方法を決める”関係性から、“AIがワークフローに介入し、最適な活用方法を提案する”という新しい姿を示す。そして、エンドツーエンドは、スケッチやデザインの初期段階から、施工/製造/運用といった後工程までデータを一貫して流し、それらを同一プラットフォーム上で統合管理することを意味する。
AU 2025のステージでは、同社が業界別クラウドとして展開する建築/エンジニアリング/建設(AEC)向けの「Forma」、設計/製造向けの「Fusion」、メディア&エンターテインメント向けの「Flow」が、プロジェクトライフサイクル全体で人、プロセス、専門分野を結び付け、より効率的で高次元な成果を実現できることに触れた。また、Autodesk AIが設計から製造までのプロセスを支援することで、リードタイム短縮、迅速なイノベーション創出、意思決定の高度化を実現することが強調された。「ステージ上では、強化された既存機能、近い将来に実装予定の新機能、研究段階の先進技術を紹介する計15のライブデモが披露された」(加藤氏)。
基調講演の中で顧客事例の紹介も行われた。その1つがデンバー国際空港の取り組みだ。同空港では、年間利用者数を現在の8230万人から1億人に拡大することを目指しており、その拡張プロジェクト「Vision 100」の中で、建設施工プロジェクト管理プラットフォーム「Autodesk Construction Cloud(ACC)」を活用していることが紹介された。また、Revitと土木エンジニア向け設計ソフトウェア「Civil 3D」を連携させることで、設計と施工のリアルタイムな調整が可能になったという。さらに、AEC向けのデジタルツインソフトウェア「Tandem」を用いて、数百規模のRevitモデルを統合し、空調、電気、機械といった複数のシステムを一元管理して運用するなど、オートデスクのソリューションを活用してさまざまな成果を挙げていることが紹介された。
もう1つの事例として、産業用大型ドローンを手掛けるSwissDronesも取り上げられた。世界的なインフラ老朽化に伴い危険な点検作業の無人化需要が高まる中、同社は安全性と環境負荷低減を両立する産業用ドローンを開発している。設計から製造までをクラウドとFusionで一元化する他、航空基準などのレギュレーション対応に向けて「Fusion Manage」を構成管理に活用していることなどが紹介された。また現在、デジタルツインとPLMによるバリエーション管理への取り組みも進めているという。
加藤氏は、基調講演の締めくくりで、アナグノスト氏が「No one gets left behind(誰も取り残さない)」というメッセージを示したことも紹介した。これは、クラウドやAIの導入に慎重なユーザーにも配慮し、デスクトップ環境を生かしながら段階的にクラウドへ移行できる選択肢を提供する方針を意味する。同社は、デスクトップ製品を「Connected Client」と位置付け、既存ワークフローにクラウド製品をシームレスに統合できる環境を提供する他、サブスクリプションユーザーに対して、最新クラウド製品へのアクセス権を付与する方針を打ち出している。
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