説明会後半では、各産業領域に特化したAU 2025の発表内容が紹介された。本稿では、オートデスク 日本地域営業統括部 技術営業本部 テクニカルソリューションズ エグゼクティブの芥川尚之氏が解説した、製造領域のパートを取り上げる。
芥川氏はまず、製造業でも深刻化している人手不足の問題を取り上げ、若手人材の不足だけでなく、人材育成を担うベテラン層も減少している点を指摘し、「その中でどのようにAIを活用し、製造業の現場を支援するかが今回の発表の中心テーマであった」と述べた。
同社は1982年にAutoCADをリリースして以降、これまでに2つの大きなパラダイムシフトをもたらしてきた。1つ目はパラメトリックや数値制御による設計効率化、2つ目はWindowsベースのCADと3D CADの普及である。そして今、3つ目のパラダイムシフトとしてAIが挙げられるという。
前述したように、同社は10年以上にわたりAIの研究開発に取り組んでおり、例えばFusionでは、材質や製造方法、強度要件などの条件を基にAIが最適形状を提案する「ジェネレーティブデザイン」、“設計業務の約40%を占める”といわれる図面起こし作業を大幅に削減する「図面の自動化」、AIが複数パターンの拘束条件を提示し、設計意図に合うものを選択できる「自動拘束」といったAI機能が既に搭載されている。
AU 2025では“つながる”をキーワードに、AIエージェントであるAutodesk Assistantの製造領域への強化も発表された。Autodesk AssistantはFusionだけでなく、PDMソリューション「Vault」にも搭載され、設計データ管理を対話形式で支援することが可能になるという。例えば、メンバー招待を行う際には、Autodesk Assistantに「この人をチームに招待して」と指示するだけで完結するなど、従来の煩雑な操作が不要になる。
さらに、Fusionと3D CADソフトウェア「Inventor」との連携も強化されており、Inventorのデータを、ローカルとクラウドのシームレスなデータ管理を可能にする「Desktop Connector」を介してFusionと共有できるようになる。また、相互連携も実現しており、例えばFusionのCAM機能で加工パスを作成している際に、Inventor側で設計変更が入ると、その変更が自動的に反映される。
Autodesk Assistantの統合により、Vaultの検索機能も強化された。従来はファイル名や属性に依存していたが、曖昧検索が可能になった。例えば「ギア」などのキーワードで検索するだけで、該当するデータが一覧表示される。さらに、最新の3Dデータに対応する図面が未更新だった場合には、AIがそれを検出して「更新しますか?」と促し、バックグラウンドで自動更新を行ってくれる。加えて、BOM情報を一元管理できるようになり、外部システムの情報もFusion上で参照できるようになるという。
また、同社が買収したクラウドネイティブなプロジェクト管理ツール「OneIPM」の技術を統合し、FusionにおけるPDM/PLM/プロジェクト管理機能の統合も進められている。その他、VaultにおいてもPLM拡張を可能にするコネクターが提供され、設計から生産までの情報連携がより一層強化される方向性が示された。
AIに関するトピックスとしては、AIが製品開発プロセスをどのように変革していくのかを、「クリエイティブプロセス」「製品開発プロセス」「生産プロセス」の3つに分けて説明した。
AU 2025で最も注目されたニューラルCAD基盤モデルは、テキストなどでほしい形状を指示でき、生成されたモデルを後工程の編集/加工にも利用できる点が特長だ。例えば、Autodesk Assistantに対して「現代的なエアフライヤーを作って」と指示すると、バスケットや操作パネルなどの必要要素を備えたエアフライヤーの3Dモデルが自動生成される。そして、生成された3Dモデルに対して金型割りなどを行う際も、Autodesk Assistantに指示するだけで自動処理される。
AIがスケッチ拘束を複数提示し、設計意図に合うものを選択できる仕組みも強化された。スケッチが離れてエラーとなる場合も、AIが自動でスケッチを修復する機能を盛り込む予定だという。また、図面自動化機能では、多くの工数を割いている図面作成作業を60〜70%削減できる見通しだ。
電気設計との統合では、半導体/電子部品ディストリビューターのAvnetとの連携により、部品価格や在庫などの情報をFusion上でリアルタイムに確認できるようになる。マーケティング領域では、Autodesk Assistantが「Azure OpenAI Service」などを活用して「PowerPoint」用の画像を生成したり、画像の質感の変更やスライド作成を半自動で行ったりするデモが示された。これはMicrosoftとの提携により実現する機能となる。また、金型設計向けの強化として、穴位置が変わってもノードをつなぎ替えるだけで再利用できるようなワークフローの自動化技術(システム自動化モデラー)を開発中であることがアナウンスされた。
部門/業種間の連携として、生産シミュレーション「FlexSim」とAutoCADのデータ、Inventorの工場レイアウト(Factory Design Utilities)が連携できるようになることを紹介した。工場建設では、建物のBIMデータと設備のCADデータを干渉チェックする必要があるため、ACCにデータを統合して、建築と製造を横断した検証が行える仕組みを提供していく方針も示された。
このように、AU 2025における製造領域のパートでは、業界別クラウドを基盤に、設計、製造、調達、建築などを横断して全てがシームレスに“つながる”環境を整備し、AIによって効率的な業務を実現することを目指す、同社のビジョンが提示された。
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