データをノイズから価値へ転換せよ 製造業がAIで成果を生み出すためのヒントDesign & Make Summit Japan 2025レポート(1/3 ページ)

オートデスクは、製造業やAECO業界のビジネスリーダーなどを対象としたイベント「Design & Make Summit Japan 2025」を東京都内で開催した。

» 2025年07月29日 06時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 オートデスクは2025年7月18日、製造業やAECO(建築/エンジニアリング/建設/運用)業界のビジネスリーダーなどを対象としたイベント「Design & Make Summit Japan 2025」を東京都内で開催した。

 同イベントでは、同社の戦略や今後の方向性を示す基調講演の他、製造業およびAECO分野のキーパーソンによる講演、ユーザー事例の紹介、パネルディスカッションなどが行われた。

 本稿では、基調講演および製造業向けセッションの内容を紹介する。記事後半では、展示会場で披露されていた学生たちの取り組みにも簡単に触れる。

課題をチャンスへ データ×AI×サステナビリティが変革を加速

 基調講演には、米Autodesk 戦略的パートナーシップ担当バイスプレジデントのKen Foo(ケン・フー)氏が登壇。「変化の時代を生き抜く:データ、AI、サステナビリティによる変革の加速」をテーマに、製造業、AECO業界、メディア&エンターテインメント業界が直面する課題と、変革に向けた道筋を示した。

米Autodesk 戦略的パートナーシップ担当バイスプレジデントのケン・フー氏 米Autodesk 戦略的パートナーシップ担当バイスプレジデントのケン・フー氏

 冒頭、フー氏は「今、われわれは技術変革の転換点にいる。一方で、非常に手ごわい課題に直面している」と述べ、同社が毎年実施している「デザインと創造の業界動向調査」について紹介した。この調査は、世界中のビジネスリーダー5500人以上を対象に実施されている。

 「予期せぬ変化に対する備え」に関する質問に対し、「十分に準備できている」と回答した割合は、昨年(2024年)の73%から、最新の調査では61%にまで低下。日本に限って見ても、昨年の44%から37%へと減少しているという。

「デザインと創造の業界動向調査 2025」によると、全体の61%(日本は37%)のリーダーが「予期せぬ変化に対応する準備ができている」と回答している 「デザインと創造の業界動向調査 2025」によると、全体の61%(日本は37%)のリーダーが「予期せぬ変化に対応する準備ができている」と回答している[クリックで拡大] 出所:オートデスク

 この要因についてフー氏は、「理由は明白だ。関税によるサプライチェーンの混乱、材料費の高騰、それに伴う予算と調達の見直しが大きく影響している。また、労働力不足も生産とイノベーションの停滞を招いている」と指摘する。

 加えて、近年はサステナビリティへの要求も高まり、企業はCO2排出量や廃棄物の削減を強く求められている。「こうした課題や要請に直面する中でも、企業は技術革新のスピードに対応し続けなければならず、新たな投資にも目を向ける必要がある」とフー氏は述べる。

 その代表例が、既にさまざまな業界に大きな影響を与えつつあるAI(人工知能)の存在である。同社の調査結果によれば、デジタル成熟度の高い企業ほど、こうした課題をチャンスに変えているという。

 「日本では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が確実に成果を挙げており、デジタル成熟企業の70%がサプライチェーンの多様化に成功し、レジリエンスにおいて優位なポジションを確立している。また、予期せぬ変化への対応力についても、72%が『向上した』と回答しており、78%が人材の採用と定着に改善が見られたとしている」(フー氏)

 こうした成果に対し、フー氏は称賛を示す一方で、「これで終わりではなく、常に『どうやって価値を創造し、顧客に届けるか』を考え続けなければならない」と指摘する。フー氏はこの姿勢を“継続的な再発明の旅”と表現し、課題をチャンスへと転換しながら、成功体験も失敗から得た学びも共有し、より良い成果の実現を目指すべきだと強調した。

 このとき重要となるのが、「データ」「AI」「サステナビリティ」の3要素であるという。「これらは未来を形づくるだけでなく、働き方や産業を超えたつながり、さらには“かつて不可能だった課題解決”の手法そのものを変える可能性を秘めている」とフー氏は訴える。

 データについては、ここ数年でデジタル化が加速し、膨大なデータが日々生み出されているにもかかわらず、その多くが有効に活用されていない現状がある。「例えば、今日の製造業では、従来の生産ラインの1000倍に相当するデータが生成されているといわれるが、そのうちの約75%が未活用のままになっている。これは見逃せないチャンスの損失だ」(フー氏)。

 もちろん、ただデータを集めればよいわけではない。データの価値は、“整理されていて、つながっている”ときに初めて生まれるものであり、「そうでないものは、ただの“デジタルのノイズ”にすぎない」とフー氏は表現する。実際に、データを資産として捉え、保存/分析/活用に踏み切った企業は、驚くべき成果を挙げている。例えば、製造業の事例では、デジタルツインを活用することで不良率を30%削減し、材料ロスの低減にも成功したケースがあるという。

 そして、データ活用は企業の意思決定に必要な判断材料という枠を超え、意思決定そのものを支える重要な要素(価値)として機能するようになる。この段階で、いよいよAIの出番がやってくる。

 フー氏は「AIを機能させるには、データがきちんと整備されていることが前提となる。すなわち、標準化されていること、クラウドでアクセス可能であること、そして細かく分解されて活用しやすいこと(粒状化)が重要だ。この3つの条件がそろって初めて、AIは単なるバズワードではなく、ビジネスを加速させる装置へと変貌する」と説明し、製造業の成功事例として、AIを活用することで製品重量を40%削減したケースを紹介した。

AIを機能させる上で求められるデータの要件 AIを機能させる上で求められるデータの要件[クリックで拡大] 出所:オートデスク

 また、AIはサステナビリティの分野でも高い効果を発揮する。同社の調査によれば、「企業のサステナビリティ推進における最も重要な要因」としてAIを挙げる声が多く寄せられている。これについてフー氏は「AIは複雑な問題に強い」と述べ、例えば製造業においては、AIの活用によって軽量かつ高強度な設計が可能となり、不良や非効率の予測も実現できるようになると説明した。さらに、サプライヤーの環境負荷を評価し、よりグリーンな代替案を提示することにも活用できるという。

 「このように、データとAIを活用することで、サステナビリティ、廃棄物の削減、CO2排出量の削減、スマートな設計の全てを実現できる。Autodeskは、そうした取り組みを支援するために、ツール群をよりスマートに、接続性を高め、直感的に進化させている」(フー氏)

 そして、これらの戦略の基盤となるのが「Autodesk Platform Services」であり、同社は現在、製造業向けの「Fusion」、AECO向けの「Forma」、メディア&エンターテインメント向けの「Flow」という3つの業界別クラウドを展開している。

オートデスクの業界別クラウドの基盤となる「Autodesk Platform Services」 オートデスクの業界別クラウドの基盤となる「Autodesk Platform Services」[クリックで拡大] 出所:オートデスク

 フー氏は「オートデスクは、データとAIの力を活用し、セキュアで透明性が高く倫理的な枠組みの中で、仕事の在り方そのものを変えようとしている。10年前、『デジタルツイン』は単なる流行語だったが、今や誰でも設計前にビジュアライズし、シミュレートし、最適化することが可能となった。そして、次に来るのが『AIの民主化』だ」と強調する。

 その具体例の1つとしてフー氏は、同社の研究チームが進めている、テキストや画像、スケッチから3Dモデルを生成するAIプロジェクト「Project Bernini」を紹介。こうしたAIを活用した最先端の研究は、単なる技術要素の開発にとどまらず、将来の“業界の働き方”そのものを変革する可能性を秘めているという。

テキストや画像、スケッチから3Dモデルを生成するAIプロジェクト「Project Bernini」 テキストや画像、スケッチから3Dモデルを生成するAIプロジェクト「Project Bernini」[クリックで拡大] 出所:オートデスク

 最後にフー氏は、「われわれの調査から、データとAIを活用するリーダーたちが未来を創り出していることが明らかになった。そうした変革の助けになるのが業界別クラウドであり、これらを活用することで、今日の課題はもちろん、明日の課題も共に乗り越えていけるはずだ。では、皆さんは次に何をすべきか? 未来は待つものではなく、自ら設計し、創り出すもの(Design&Make)である」と述べ、講演を締めくくった。

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