フー氏に続いて製造業向け基調講演に登壇したのは、米Autodesk データソリューション担当バイスプレジデントのSrinath Jonnalagadda(スリナス・ジョンナラガッタ)氏だ。講演では、オートデスクが製造業界をどのように支援しているのか、その具体的な取り組みが紹介された。
冒頭、ジョンナラガッタ氏は「製造業は今、よりスマートに、より早く、そしてより少ないリソースでモノづくりを実現しなければならない」と述べ、コスト削減や人材不足といった課題の中で、かつてないプレッシャーにさらされている状況を強調した。
同社の調査によれば、製造業では新製品の45%が予定通りに市場投入されておらず、72%が期待していた利益率を達成できていないという。こうした成果の未達には、「生産性の損失」が深く関わっていると指摘する。
例えば、設計者が週21時間も図面作成に費やしていたり、機械加工のエンジニアがNCプログラム作成に週8時間以上かけていたりといった状況がある。さらに、81%の企業がサプライヤー部品を手動でモデリングしており、48%のエンジニアが標準部品の検索に毎日1時間も割いている。こうした非効率な作業の積み重ねが、開発全体の大きな足かせとなっている。また、データ面では、情報が分断された「サイロ化」の問題に多くの現場が直面しているという。
これらの課題に対応するため、オートデスクはAutodesk Platform Servicesを構築した。ジョンナラガッタ氏は「Autodesk Platform Servicesは、製造業を含むあらゆる業界が“Good”から“Great”へ進化するための基盤だ」と語る。
このAutodesk Platform Servicesの上に構築された業界別クラウドは、高い拡張性と連携性を備えており、そのうちの1つである製造業向けのFusionでは、製品開発から製造に至るバリューチェーン全体にわたり、データを核としたチーム連携、作業連携、意思決定支援を実現できる。これにより、業務の自動化が進み、各フェーズで有用な洞察を得ることが可能となる。
Fusionは、企業が保有するITインフラやOTとシームレスに接続可能であり、ERP、PLM、MESといった基幹システムとも柔軟に連携する。また、「AutoCAD」「Inventor」「Revit」などのオートデスク製品との連携にも対応し、構想設計から製造、ファイナンス、運用までを一貫して支援する。さらに、拡張可能なデータ基盤により、企業ごとのニーズに応じた機能カスタマイズも可能だ。
「Fusionが目指すのは、製造現場のさらなる進化である。データを中核に据えることで、AIの基盤が整い、機敏性やサステナビリティといった“次の成果”を実現できる」(ジョンナラガッタ氏)
オートデスクはまた、広範で深いポートフォリオを活用し、次世代工場の構築も支援している。工場の敷地計画から建設、運用に至るまで、ライフサイクル全体に対応できる点が同社の強みだという。「デジタルツイン技術を用いることで、工場の“今”を高度に可視化し、より最適な意思決定を促すことができる」とジョンナラガッタ氏は訴える。
これらの工場向けソリューション群もFusionと同一のテクノロジースタック上に構築されており、計画から設計、建設、運用まで一貫したワークフローを可能にしている。
Fusionが得意とするコンシューマー製品の開発領域では、初期構想段階から生産までをFusionが一貫して支援することで、製造業におけるイノベーションと市場投入スピードの最適なバランスを実現している。また、関係者全員が1つのプラットフォーム上で製品開発/製造業務を共有できるため、連携と同期もスムーズになる。
「製品開発と製造の未来は、AIによってさらに進化する」と、ジョンナラガッタ氏は語る。
「AIは次なる生産性と革新のフロンティアであり、Fusionはその実現に最適なプラットフォームだ。オートデスクは過去11年間、クラウド技術への投資を継続し、その上にAIの基盤を築いてきた。AIはもはやバズワードではなく、Fusionのあらゆる領域に本格的に組み込まれつつある」(ジョンナラガッタ氏)
例えば、図面作成やCAMファイルの生成といった繰り返し作業をAIが自動化することで、エンジニアはより創造的な作業に時間を割けるようになる。
加えて、サプライヤーネットワークの最適化、CO2排出量の削減、コストの最小化といった複雑な意思決定も、複数システム(ERP、CRM、MES、PLMなど)からのデータをAIが統合/正規化することで、スピーディかつ高精度に行えるようになるという。
「われわれが最終的に目指しているのは、業界全体のパラダイムを“ツール操作中心”から“成果重視”へとシフトさせることだ。3Dモデルの作成はあくまで手段にすぎない。本当に追求すべきは、長く使われる革新と持続可能な利益率であり、AIはそうした本質的な価値へと焦点を移す原動力となる」(ジョンナラガッタ氏)
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