知っておきたいJISから見た機械材料 〜鋼の種類と違い〜若手エンジニアのための機械設計入門(11)(1/2 ページ)

3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第11回は、前回の内容を踏まえながら、JISから見た機械材料、特に鋼の種類について取り上げる。

» 2025年12月03日 06時00分 公開

 連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、機械設計を始めて間もないエンジニアの皆さんを対象に、設計業務で押さえておくべき基礎知識や考え方などを分かりやすく解説していきます。

 前回は、機械材料を種類別に分類しましたが、今回はその中から鉄鋼材料に焦点を当て、JISで定義されている鋼の種類と、その基本的な違いを紹介します。機械設計の現場では鋼材の選定機会が多いため、この機会に覚えておくと役に立ちます。

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鋼の種類

 金属材料の中でも鉄鋼材料は、現代の機械設計において最も使用頻度の高い材料の1つです。鋼(読み:こう/はがね)は「鉄に炭素を添加した合金」であり、炭素量の調整や他元素の添加、さらに熱処理によって、強度、靭性、加工性などの特性を広い範囲で変化させることができます。これらの調整により、求める性能に応じた材料を選択できる点が、鉄鋼材料の大きな特徴です。

 一般に、炭素量が0.02%以下のものを「純鉄(Pure Iron)」、0.02〜2.1%程度を「(Steel)」、2.1%以上を「鋳鉄(Cast Iron)」と呼びます。鋼の種類については「JIS G 0203:2009 鉄鋼用語(製品及び品質)」で定義されています。以下に主要な分類を示します(表1)。

用語 定義 対応英語(参考)
純鉄 炭素その他の不純物元素が、非常に少ない鉄。不純物元素の限界についての明確な区分はないが、炭素含有率0.02%程度まで純鉄と称されている。
注記:電解鉄、アームコ鉄、カーボニル鉄及び還元鉄は、純鉄として取り扱われている
Pure Iron
鉄を主成分として、一般に約2%以下の炭素と、その他の成分を含むもの Steel
炭素鋼 鉄と炭素の合金で炭素含有率が、通常0.02〜約2%の範囲の鋼。少量のけい素、マンガン、りん、硫黄などを含むのが普通である。便宜上、炭素含有量または硬さ(強度も含まれる。)によって炭素鋼は、さらに次のように分類される場合がある
炭素含有量による分類:低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼
硬さによる分類:極軟鋼、軟鋼、硬鋼
Carbon Steel
合金鋼 鋼の性質を改善向上させるため、または所定の性質をもたせるために合金元素を1種または2種以上含有させた鋼 Alloy Steel
表1 4.1 鋼の種類 ※「JIS G0203:2009 4.1.1 鋼の種類」より筆者が抜粋

 炭素量が増えるほど硬く強くなる一方で、靭性(じんせい)(※1)は低下し、割れやすくなります。そのため、実際の設計では、用途や必要とされる強度、加工方法などを考慮しながら、適切な炭素量と熱処理条件を選定することが重要です。特に、衝撃や曲げ荷重が繰り返し作用する部品では、強度だけでなく靭性の確保も忘れてはなりません。

※1:靭性とは、割れにくく、粘り強く壊れにくい性質のことです。

機械設計で用いられる鋼

普通鋼(一般構造用鋼材)

 最も一般的に使用される鋼材の代表例として、SS400が挙げられます。

 SS400の「SS」は“Structural Steel(一般構造用鋼材)”を示し、「400」は最低引張強さが400N/mm2以上であることを意味します。筆者は強度解析を行う際、同様の機械特性を持つASTM A36鋼を使用することがありますが、その材料ライブラリでも同程度の引張強さを確認できます。

SS400:記号の意味 図1 SS400:記号の意味[クリックで拡大]

補足:SS400はJIS規格、A36はASTM規格の材料です。両者は引張強度範囲(400〜550MPa)が近いものの、降伏強度など一部の機械的特性は異なります。そのため、図面指示や設計条件に応じて、規格と特性を確認した上で選定する必要があります。

 普通鋼は、強度と加工性のバランスが良く、機械架台、フレーム、ブラケット、ベースプレートなど幅広い用途で使用されます。ただし、溶接性や加工性の良さを重視した鋼であるため、熱処理によって大幅な高強度化を図る用途には向きません。設計時には、必要強度を満たす範囲で適切な板厚や断面形状を検討します。

機械構造用炭素鋼

 一般構造用鋼材よりも高い強度が求められる部品に用いられ、JIS記号では「SxxC」(例:S45C、S50C)と表記されます。「xx」の数字は平均炭素量を示しており、45であれば炭素量0.45%を意味します。

 炭素量が増えるほど、焼入れや焼戻しなどの熱処理によって強度を高めることができます。そのため、軸、ピン、ギヤ、リンクなど、回転力や衝撃を受ける機械部品に適用されます。特にS45Cは、機械設計者にとって最も使用頻度の高い材料の1つです。

 筆者の経験では、多くの一般機械部品にS45Cを用いてきましたが、必要な機能やコストの違いを整理することで、部分的にSS400に置き換えたことがあります。両者の主な違いは表2の通りです。材料の分類、強度、加工性、溶接性などが異なるため、用途に応じた適切な選択が必要です。例えば、シャフトやギヤのように面圧や衝撃を受ける部品では、SS400では強度不足となるためS45C以上が選択されます。

項目 SS400 S45C
材料分類 一般構造用鋼材 機械構造用炭素鋼
JIS参照 JIS G3101 JIS G4051
JIS記号の意味 SS:Structural Steel(一般構造用鋼材)
400:最低引張強さ400N/mm2以上
S:Steel(鋼)
45:炭素量0.45%
C:炭素鋼
主な用途 架台、ブラケット、ベース、フレーム、溶接構造物 シャフト、ギヤ、ピン、リンク、機械要素部品
強度レベル 中程度(構造物を支える用途に十分) 高強度化が可能(焼入れ/焼戻しで特性向上)
溶接性 良好 あまり良くない(硬化/割れに注意)
機械加工性 良好(切削しやすい) やや硬く、切削抵抗が高い
熱処理 基本的に不可(強度向上の効果が小さい) 焼入れ/焼戻し/調質による強度向上が可能
代表的な機械特性 引張強さ:約400〜510MPa 引張強さ:約570〜700MPa(調質前)
調質後は900MPa以上も可能
靭性 中程度 熱処理条件で調整可能
コスト 比較的安価 やや高価
材料選定の目安 固定/支持などの構造部材用 回転/摩耗/衝撃など力を受ける部品向け
表2 SS400とS45Cの比較
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