CFDソフトウェアは設計現場においても徐々に普及しつつあるが、導入コストや操作の難しさから、気軽に扱える環境は依然として限られている。そうした中で登場したのが、クラウドベースのCFD解析サービス「AirShaper」だ。本連載ではその実力と可能性を、実際の使用感とともに検証する。
いきなりですが、筆者は気軽に使用できるCFD(Computational Fluid Dynamics/数値流体力学)ソフトウェアはないものかと考えることがあります。皆さんはCFDについて、どのような印象をお持ちでしょうか。
構造解析については、少なくとも線形静解析であれば、導入や使用のハードルは10年前と比べて大きく下がっていると感じていますし、実際に設計開発の現場でも使用され始めているのではないでしょうか。
筆者の主な業務は受託解析ですが、それとは別に、いわゆる「設計者CAE」の導入トレーニングを依頼されることもあります。3D CADによる設計が定着し、「そろそろ構造解析も」というフェーズに入っている組織も少なくないようです。さらに、線形静解析だけでなく、動解析や非線形解析の導入を検討したいという相談も聞くようになりました(実際に、かなり難易度の高い非線形分野でコンサルティングを行っている企業もあります)。
一方で、CFDについては、気軽に手を出せるソフトウェアはあまり存在しないというのが筆者の認識です。平たく言えば、ソフトウェアは高価ですし、実用的なパフォーマンスを出すためには、ハードウェアにも相当な投資が必要です。実際、高価でとっつきにくい印象を持つ方も多いでしょうし、費用の面だけを見ても、「ちょっと試してみたい」というわけにはいきません。
筆者はなりわいとしてシミュレーションに携わっているため、こうしたコストは避けて通れない立場にありますが、それでも商用CFDソフトウェアのコスト負担は、それなりに大きいと感じています。
もちろん、「OpenFOAM」という優れたオープンソースのCFDツールを使えば、ソルバー自体に費用はかからないため、比較的低コストで計算環境を整えることができます。しかし、CFDに触れたことがない人にとって、いきなりオープンソースのCFDツールを扱うのは、やはりハードルが高いのではないでしょうか。
筆者自身もOpenFOAMで計算を行うことがありますが、商用CFDソフトウェアの方が使いやすいGUIが整っており、データ準備時のストレスは少ないと感じます。ただし、計算環境を維持するための費用は、依然として大きな負担です。
結局のところ、CFDは昔から、その分野の専門家が高価なライセンスのソフトウェアを用い、膨大な計算資源をオンプレミスで処理するという印象が根強く残っています。さらに、使いこなすためには専門知識も求められます。つまり、設計の現場において、こうした要素がCFD活用の大きな壁となっている状況は、今もなお大きくは変わっていないのではないでしょうか。
他の多くのテクノロジーと同様に、クラウドコンピューティングの普及とSaaS(Software as a Service)形式のソフトウェアは、CFDの分野にも広がりを見せています。その一つが、今回紹介する「AirShaper」です。
AirShaperは、ベルギーに本社を置く企業で、簡単に言えば、クラウド上で動作するSaaS形式のCFD解析サービスを提供しています。
このサービスの最大の特長は、アカウントさえ作成すれば、Webブラウザ経由でアクセスでき、複雑なソフトウェアのインストールやライセンス管理が一切不要な点にあります。3Dのジオメトリーファイルをアップロードし、いくつかの条件を設定するだけで、誰でも手軽に流体解析を実行できます。
より具体的には、3Dデータをアップロードするだけで、抗力(ドラッグ)や揚力(リフト)をはじめとする空力特性を評価でき、結果も一般的なCFDソフトウェアと同様にビジュアルで確認可能です。
今年(2025年)6月に開催された「Japan Drone 2025(ジャパンドローン2025)」に併せて、AirShaper CEOのWouter Remmerie(ウーター・レメリー)氏が来日され、お話を伺う機会がありました。話を聞いて非常に興味を持ったため、筆者自身も実際に試してみることにしました。すぐに解析したいモデルがなくても、チュートリアルが用意されているため、使用感を確かめることができます。
詳しい内容は後述しますが、筆者の率直な印象は以下の通りです。
チュートリアルを試した限りでは、現時点でのこのサービスは、内部流れもβ版として用意されているものの、正式には外部流れがメインのようです。具体的には、自動車の空力性能評価や、航空機、ドローンの性能評価、設計支援などがすぐに思い付く活用例です。いずれの場合も、設計対象のオブジェクトの周囲を流体が流れる外部流れの解析になります。
また、輸送機器だけでなく、建物などを対象とした周囲環境の流体解析にも使用できると考えられます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.