エレクトロニクスを制する者は、カーエレを制す知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(3)(3/3 ページ)

» 2008年05月30日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]
前のページへ 1|2|3       

ダイオードの動作原理

 半導体は読んで字のごとく、“金属のような導体と絶縁物との間の物質”です。

 Si(Geなどでもよい)の真性(純度が高い)半導体にB(ホウ素)などの不純物を添加して、+(プラス)電荷として動作する正孔を多数キャリアとする「P型半導体」と、P(リン)などの不純物を添加して−(マイナス)電荷として動作する電子を多数キャリアとする「N型半導体」を接合してバイアスを掛ける(電圧を印加する)ことにより、正孔と電子が振る舞います。図6にダイオードの動作原理を示します。

図6 ダイオードの動作原理

 図6(A)のようにPN接合のP型に正電位をN型に負電位の順バイアスを掛けるとP型の正孔は正電位に反発してN型の方へ移動し、N型の電子は負電位に反発してP型の方へ移動して接合面を通って電流が流れます。つまり電流がP型からN型に流れます。一方図6(B)のように逆バイアス(P型に負電位、N型に正電位を掛ける)にするとP型の正孔は負電位に、N型の電子は正電位の方に移動して接合面には電流が流れません。これがダイオードとしての動作になります。

トランジスタの動作原理

 次はトランジスタです。トランジスタは図7(A)に示すように、B−E間とB−C間はPN接合になっています。

図7 トランジスタの概要

 B−E間に“順バイアス”、B−C間に“逆バイアス”に電圧を掛けます。するとB−E間は順方向なので電流が流れます。すなわち、エミッタからベースへ電子が流れます。しかし、ベース層の厚さは非常に薄い(約10μm)のでほとんどの電子は、このベース層を突き抜けてコレクタ層に達します。

 B−C間には逆バイアスが掛かっていますのでコレクタ層に入った電子は加速され、コレクタ電極に向かいます。この電子の流れ(電流はこの逆)がコレクタ電流です。一方ベース層ではエミッタからのごく一部の電子がベース層の正孔と再結合して消滅します。また、順方向バイアスされていますので、いくつかの正孔はエミッタに流れます。これがベース電流です。すなわちB−E間を順方向バイアスし、少しのベース電流IBを流すことにより、大きなコレクタ電流ICを流すことができます。このICとIBとの比を“直流電流増幅率(hFE)”と呼びます。このhFEの値が大きいのがTr(トランジスタ)の特長です。

 図7(B)にNPNTrの記号を、図7(C)にTrで最も重要なIBをパラメータとした静特性を示します。図7(C)からICはVCEにほとんど依存せずに平坦な領域を持ち、この領域においてIBによりICを制御しています。図7(C)の特性では、hFEは100です。図8にエミッタ接地回路と負荷直線の事例を示します。

図8 エミッタ接地回路と負荷直線(直流)

 図8(A)の回路において、C−E間の電圧は式16で求められます。

VCE = VCC − RL× IC ……式16

 式16からVCCは電源電圧で一定、RLは決まっています。「IC = hFE × IB」から、VCEはIBにより一義的に決まります。式16を東芝セミコンダクター社「2SC1815」の静特性(図8(B))に乗せてみます。赤色の直線を“直流負荷直線”と呼びます。信号が入らないときをQ2(IB = 20μA)としますと、信号Viが入力されるとQ2を基準としてこの直線上で動きます。このQ2のことを“動作点”といいます。

 このQ2を決めるのが抵抗R1と抵抗R2です(固定バイアスという)。このIB = 20μAは入力電圧Viが印加されない場合です。入力電圧Viが印加され増減しますと抵抗R3を介して、IBが増減します。

 例えば、IBが20μAから減じて10μAになった場合にはQ4になり、VCEはV4の電圧になります。逆にViが増加してIBが20μAから増えて30μAになった場合にはQ5になり、VCEはV5の電圧になり出力されます。この場合には入力電圧を増せば出力電圧が減り、入力電圧を減らせば出力電圧が増えます。これを“反転した出力”といいます。

 以上の動作がTrによる基本的な増幅です。この動作が理解できますと電流帰還バイアスや交流増幅回路などの応用回路も理解しやすいと思います。自動車では、ベースに加えた信号によってコレクタ電圧がLレベルかHレベルかで動作するスイッチとしてTrを使用するケースが多いです。

関連リンク:
トランジスタに書かれた記号を読み解こう
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/elecatalog/elecatalog_14.html
分かっておきたいトランジスタの種類
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/elecatalog/elecatalog_15.html
さらに分かっておきたいトランジスタの種類
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/elecatalog/elecatalog_16.html
東芝セミコンダクター
http://www.semicon.toshiba.co.jp/

Trのスイッチ回路

 ここで、スイッチ動作について説明します。図8(A)において、抵抗R1とR2をなくしたとします。そして、図8(B)の負荷直線においてIBをどんどん大きくしていきますと、VCEは小さくなっていきますが、これ以上左に行けなくなります。この点をQ3とします。Q3のVCEのことを“コレクタ−エミッタ間飽和電圧(VCE(sat))”といいます。

 負荷抵抗RLが決まれば飽和電圧にするIBは決まります。メーカーでは「IC / IB = 10」のVCEを飽和電圧と定義しています。この飽和電圧をLレベル(0)とし、「IC = 0A」のときのVCE(=VCC)をQ1としますと、このQ1とQ3の点を使って、スイッチを動作させます。

 では、Trが消費する電力はどうなるでしょうか?

 この場合のTrの消費電力を“コレクタ損失”と呼びます。Q1の場合のコレクタ損失は「IC = 0mA」ですから0Wです。2SC1815で「RL = 2.7kΩ」「VCC = 12V」としますと、Q3のICは、「12V / 2.7kΩ ≒ 4.5mA」となります。このコレクタ電流のVCE(sat)は、0.03V(メーカーカタログ値)です。従って、コレクタ損失は「4.5mA × 0.03V = 0.135mW」となり、非常に少ない電力となります。

 しかし、図8(B)のQ5においては式16により、「VCE = 12V − 2.7kΩ × 3mA(IB = 30μAのIC) = 3.9V」となり、コレクタ損失は「3.9V × 3mA = 11.7mW」となります。Q1のおよそ87倍の消費電力です。理論的にはQ1とQ2の真ん中でコレクタ損失は最大になります。この状態であれば、コレクタ電流はまだ少ないので問題ありませんが、これが多くなって50〜100mAくらいになるとコレクタ損失やTrの放熱が気になってきます。

 従って、Q1とQ2のみのスイッチ動作は前述の負荷直線のQ1とQ2の間での動作よりTrの負担をはるかに小さくできます。このような原理によるTrのスイッチ回路は、自動車用電子制御回路において頻繁に使用されています。

 さて、今回は「カーエレクトロニクスに使われる電子制御回路の基礎」の前編として、電子制御回路の基礎中の基礎となる素子について解説しました。次回の後編では、トランジスタをIC(集積)化した「オペアンプ・ロジック回路」「いろいろなFET」について解説する予定です。ご期待ください。(次回に続く)

関連リンク:
連載記事「完全マスター! 電子回路ドリル」
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/index/eledrill.html

【参考文献】
(1)「半導体(図解雑学)」燦 ミアキ、大河 啓/ナツメ社
(2)「図解 はじめて学ぶ電子回路」谷本 正幸/ナツメ社
(3)トランジスタ技術(2002年4月号)/CQ出版
(4)トランジスタ技術(2003年4月号)/CQ出版

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.