3回目を迎えたマイコンでAIパビリオン、省電力MPUのエッジ生成AIもあるよ!組み込みイベントレポート(1/3 ページ)

「第9回 AI・人工知能EXPO【春】」の「小さく始めるAIパビリオン」に、AIスタートアップのエイシング、インフィニオン、STマイクロ、NXP、ヌヴォトン テクノロジー、ルネサスが出展し、マイコンをはじめ省電力のプロセッサを用いたAI活用に関する展示を披露した。

» 2025年04月23日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 「第9回 AI・人工知能EXPO【春】」(2025年4月16〜18日、東京ビッグサイト)の「小さく始めるAIパビリオン」に、AI(人工知能)スタートアップのエイシング、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン、STマイクロエレクトロニクス、NXPジャパン、ヌヴォトン テクノロジー ジャパン、ルネサス エレクトロニクスが出展し、マイコンをはじめ省電力のプロセッサを用いたAI活用に関する展示を披露した。

「小さく始めるAIパビリオン」の様子 「小さく始めるAIパビリオン」の様子[クリックで拡大]

 小さく始めるAIパビリオンは、2023年5月の「第7回 AI・人工知能EXPO【春】」から3年連続の開催となる。これまでの2回は参加企業数が4社だったのに対し今回は6社に増えた。特に、インフィニオン、STマイクロ、NXP、ルネサスというマイコン大手4社が参加したことは、生成AI一色に染まるAI・人工知能EXPOという展示会の中で際立った存在感をさらに強めることになった。

エイシングはオムロンが採用した「AI-PID」のデモを披露

 エイシングは、汎用マイコンでAIモデルの推論実行にとどまらず深層学習までも可能にする技術を開発しているスタートアップ企業だ。今回は、異常検知向けAIアルゴリズム「AiirMSAT」と「AI-PID」のデモを披露した。

 AiirMSATは機器の異常検知を主な用途とするAIアルゴリズムだ。メモリ数十KB、動作周波数が数十M〜数百MHzという一般的なマイコンであれば数十μ〜数msで推論処理を実行できる。今回のデモは、ベルトコンベヤーの異常検知を想定したデモになっており、ベルト動作時に物が挟まった際、ルネサスのマイコンボード「GR-ROSE」(「RX65N」搭載)に組み込んだAiirMSATが、ベルトに取り付けた振動センサーの情報を基に異常度合いを検出するという内容になっている。また、アイ・エル・シーの機器同士の通信を可能にする制御エンジン「Connected PLC」と連携することで、異常検知の結果を信号灯のランプで点灯したり、PLCに対して異常を通知してベルトコンベヤーを停止したりといったことも行っている。これまでAiirMSATは、Armの「Cortex-Mシリーズ」を搭載するマイコンへの対応が中心だったが、今回の展示ではルネサスの独自コアを搭載するRX65Nで動作している点で異なっている。

「AiirMSAT」を用いたベルトコンベヤーの異常検知を想定したデモ 「AiirMSAT」を用いたベルトコンベヤーの異常検知を想定したデモ[クリックで拡大]

 AI-PIDは、モーターや油圧の制御に用いられるPID制御を最適に補正するAIアルゴリズムだ。今回は、フィルム巻き取りなどに用いられるウェブ搬送機の位置ずれを補正する蛇行制御装置の性能をAI-PIDによって向上するデモを動画で披露した。何らかの外乱によって発生する、フィルムを模擬したベルトの位置ずれ量をレーザー変位計で計測し、その計測値からAI-PIDで1秒後の位置ずれ量を予測。この予測を基にベルトの動作を制御して早期に位置ずれを補正することができる。「オムロンが採用した事例をデモ機に仕立てた」(エイシングの説明員)という。

「AI-PID」を用いたウェブ搬送機の位置ずれを補正行うデモ 「AI-PID」を用いたウェブ搬送機の位置ずれを補正行うデモ[クリックで拡大]

ヌヴォトンは時系列AIモデルとオンデバイス学習に注力

 ヌヴォトン テクノロジー ジャパンは、同社のマイコン「M467」を用いて、時系列データを対象とするAIモデルのオンデバイス学習が可能なことをデモで示した。M467はArmの「Coretx-M4」を搭載するマイコンであり、AIアクセラレータは搭載してない。まさに汎用マイコンといえる。披露したデモは2つ。1つは「AI異常検知遠隔モニタリング」、もう1つは「レザバーコンピューティングによる異常部品検知」である。

 AI異常検知遠隔モニタリングは、ファンモーターのフィルター目詰まりについて微小な振動変化からAIで検知し、AWS経由でリモートモニタリングするという内容である。異常検知のAIモデルは、VAE(変分オートエンコーダー)と正常データを用いた教師なし学習で構築しており、数値が3σの範囲内から出たときに異常と検知するようになっている。さらに、オンデバイス学習にも対応しており、約20秒データを収集した後、4〜5秒で学習することでAIモデルを最適化できていた。

「AI異常検知遠隔モニタリング」でオンデバイス学習のデモを行う様子 「AI異常検知遠隔モニタリング」でオンデバイス学習のデモを行う様子[クリックで拡大]

 レザバーコンピューティングによる異常部品検知は、QuantumCoreの技術を組み込んだデモとなる。レザバーコンピューティングはRNN(回帰型ニューラルネットワーク)の一種だが、時系列データを簡便に扱え、高精度推論と軽量学習の両立が可能なことを特徴としている。デモは、モーターで動作するレゴブロックの3つのシステムの電流値をM467に組み込んだレザバーコンピューティングのAIモデルでモニタリングし、個別に異常を検知するという内容。オンデバイス学習も可能で十数秒でAIモデルの学習を完了していた。

「レザバーコンピューティングによる異常部品検知」のデモ 「レザバーコンピューティングによる異常部品検知」のデモ[クリックで拡大]

「当社はM467のように今使っているマイコンにもAIを組み込めるようにしたいという要望に応えたいと考えている。以前の他の展示会でマイコンにAIモデルを組み込めることをアピールしたところ『オンデバイス学習はできないのか』という要望があり、今回はそれをメインに展示を構成した」(ヌヴォトン テクノロジー ジャパンの説明員)

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