トヨタ自動車は世界中に生産拠点を持っており、これがロボット開発において極めて有利な環境となっている。世界中に拠点があることで、フィジカルAIの学習に不可欠なデータ収集をより効率的に行える。現場では既に深刻な人手不足に直面しており、自動化に対する切実かつ高い需要が存在している。量産技術の転用やサプライチェーンの確立の他、自動車というコアビジネスがあることから腰を落ち着けた開発ができるという側面もある。
また人材づくりへの貢献という側面もある。工場の現場メンバーが、自ら安価な深度センサーやコンピュータビジョンを活用してピッキングの誤差を吸収するといった「カイゼン」活動を支援している。こうした現場主導の開発/改善をサポートする取り組み自体が、「一種のフィジカルAIとしての土台作り人材」への貢献にもつながっている。
森平氏は、従来のティーチングでは対応できない誤差をコンピュータビジョンや安価な触覚センサーで吸収する取り組みや、模倣学習を活用して人間が行ったビニール袋の開封など細かい作業をロボットが学習/実行する様子などを紹介した。まだ本当の実用化までは遠いと考えているとのことだったが、ある程度は実現できつつあるようだ。
ビニール袋の開封には、トヨタ自動車のAI研究開発子会社であるTRI(Toyota Research Institute)が開発した模倣学習のための「Diffusion Policy」や、人間の操作データを収集/記録するデバイス「UMI(Universal Manipulation Interface)」、その改良版でより高精度なピッキング作業の学習を可能にする「UBI」、そして「大規模行動モデル(Large Behavior Model)」が技術基盤として活用されている。LBMを使うことで単発の動作だけでなく、より長い時間軸(ロングホライズン)で文脈を理解し、一連の作業を遂行できるシステムの構築を目指しているという。ヒューマノイドの上半身だけでなく、全身を使った作業への適用が検討されている。
未来創生センターではAIが学習しやすいように摩擦を抑えリアルタイム性の高いハードウェアを開発することでモデル性能を最大限に引き出すアプローチを取っている。開発したハードウェアはアカデミアにも提供し、活用してもらうことで改善サイクルを回しているという。外部の研究者との共創によって、フィジカルAIを動かすための最適なプラットフォーム作りを加速させている。
同センターは、ロボットを無機質なものではなく、パートナーとして捉えられるものとした開発も進めている。異業種と組むことで実際に活用しながらその開発を進めていると述べ、日本科学未来館のロボット「ケパラン」でのノンバーバル(非言語)コミュニケーション、トヨタ自動車 会長の豊田章男氏をモデルにした「AIモリゾウ」などロボットへのAIの実装例も紹介した。これらのロボットはできるだけ早い応答ができるよう工夫されている。さらに、ロボットだけのとどまらずTeamsとの連携が可能なアプリ版もあり、議論をうまくまとめるといったことにも使われているという。
トヨタ自動車のヒューマノイドおよびフィジカルAIの領域における戦略的優位性としては、ここまで挙げてきたこと以外にも、トヨタ生産方式(TPS)に精通したスタッフが各地におりロボットのメンテナンスや継続的な改善が可能なこと、オープンな共創サイクル、インテル製プロセッサの採用に見られるような長期的な安定供給、リアルタイム性(EtherCATなどへの親和性)、高信頼性を重視した設計思想などがある。
さらに、将来を見据えた研究開発として素材関連の事例を紹介した。現在のロボットに使われている硬い素材のままでは、人間との真の安全な共存は難しいという認識があり、状況に合わせて形状や硬さを変える可変剛性/モーフィング素材の研究を海外機関と共同で進めているという。「柔らかさ」や「硬さ」を自在に操れる技術が整うことで、物理的な側面からも人間と安全に協力/共存するロボットが実現できると考えられている。
また、プログラミング経験のない子どもでもビジュアルプログラミング言語の「スクラッチ」を用いてロボットを動かせるワークショップなどを開催しており、次世代への技術普及を図っていることも紹介された。
イベントの最後には、インテル 執行役員 技術・営業統括本部 本部長の町田奈穂氏がクロージングとして40年を超える同社の実績をあらためて紹介。その上で同イベントについて「インテルからの単なる情報提供の場ではなく、参加者の皆さんの横連携もあるとうれしい」と述べた。
同社は今後も、技術交流の場としてインテル・ロボティクス・ワークショップの開催を継続していく方針である。
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