「インテル・ロボティクス・ワークショップ2026」のレポート記事をお送りする。今回の後編では、ヒューマノイドとフィジカルAIをテーマにした、三菱UFJ銀行、Preferred Networks(PFN)、トヨタ自動車 未来創生センターの講演内容を紹介する。
インテルは2026年7月23日、同社のロボティクス/フィジカルAIソリューションを紹介する自社イベント「インテル・ロボティクス・ワークショップ2026」を東京都内で開催した。講演やデモ展示を通して、インテルのAI PC向けプロセッサ「Intel Core Ultra シリーズ3(開発コード名:Panther Lake)」をはじめ、ロボティクスやフィジカルAI(人工知能)を支える最新テクノロジーと事例が紹介された。
前回の前編に続いて今回の後編では、フィジカルAIとヒューマノイドをテーマにした三菱UFJ銀行、PFN、トヨタ自動車 未来創生センターの講演内容を紹介する。
三菱UFJ銀行 産業リサーチ&プロデュース部 R&D第三グループ 調査役の安井也雄氏は、フィジカルAIおよびヒューマノイドの市場動向や国内の取り組みを紹介した。ヒューマノイドは、人間向けに設計された既存の環境を改変することなく導入できる汎用的なロボットソリューションとして広範な領域での活用が期待されている。
安井氏は「まず市場そのものとして立ち上がるかどうかが分岐点だ」と指摘する。そのポイントとなるのが「社会課題」と「期待市場」の2つだ。社会課題としては人手不足の深刻化が挙げられる。一方、フィジカルAIはハードウェアとソフトウェアを統合した技術であり期待市場としての価値が大きい。「日本のプレイヤーがここで存在感を発揮できれば、社会課題の解決と経済成長の両立が可能になる。そこで、三菱UFJ銀行のような金融機関としても、この新しい産業のエコシステムをどのように支え、市場形成に貢献できるかを検討している段階だ」(安井氏)という。
そしてフィジカルAIの定義と従来型のルールベースロボットの相違点などを取り上げ、フィジカルAIに適した業務は、ルールベース制御で行われる定型作業の世界ではなく、従来は自動化が難しかったロングテール業務に適用されるだろうと展望した。
ヒューマノイドについては、二足歩行のヒューマノイド、デミヒューマノイド(セミヒューマノイドを含む)、人間に似せた外見のアンドロイドの3つに分類できるとした。そして、ヒューマノイドの競争力は大脳(ソフトウェア)、小脳(運動制御)、ボディーや電池、ハンドの4つの構成要素に分けられるとし、各社の導入状況を概観した。
モルガン・スタンレーの推計によれば、2050年に向けて市場は爆発的に成長し、米国で約1兆1800億米ドル、中国で約1兆1550億米ドルに達すると予測されている。1兆ドル超といってもピンとこないかもしれないが、これは日本の経済規模(名目GDP)の約4分の1に匹敵し、その巨大な市場が米中それぞれの国で誕生することを意味している。
ヒューマノイドの市場導入がどのように進んで行くかはまだ確定していないものの、まずは周辺環境を制御しやすい工場や物流などの分野から導入されていくとみられている。関連する業界ではメーカーやユーザーの垣根を超えた提携や買収も起き始めている。
日本はハードウェア技術に強みを持つもののソフトウェアとデータの統合が課題だとみられている。この課題解決に向けて産学官による取り組みも始まっており、AIRoA(AIロボット協会)、ロボット議連、KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)、Noetraなどの活動が紹介された。なお、日本政府はこれらの活動により、世界のAIロボティクス市場で2040年に世界シェア3割超を獲得することを目標に掲げている。
安井氏は最後に「単に海外のロボットを輸入して使うのではなく、市場をしっかり育ていくことが重要だ。金融機関としても市場を育成していきたい」と述べている。
Preferred Networks(PFN) リテールソリューションズ事業本部 本部長 兼 フィジカルAI事業統括の海野裕也氏は、自社のプロダクトの話ではなく、主にフィジカルAIの現状と課題を紹介した。海野氏はもともと、自然言語処理(NLP)の研究者であり、近年はリテール向けロボット分野の業務を手掛けている。同氏は「かつてAIは世の中から何の期待も持たれていなかった」と振り返り、現在の急加速するAIブームに驚かされているとした。
フィジカルAIが何を指すのかについては「もやもやしている」(同氏)状況であり、現在は多義的な状態にある。広義には物理現象を扱うAIは全てフィジカルAIということになるが、今回の講演では物理的実体を制御し、現実世界で何らかのアクションを完遂するための知能という文脈に絞り、「ロボット制御におけるAIの役割」に定めて議論を展開した。
AIを活用するロボットは目(センサー)、足(移動)、腕、手(マニピュレーター)などの要素から構成される。ロボットは環境を認識してデータを取得し、適切な位置に移動して対象物にアプローチし、その対象物を把持したり精密な操作を行ったりする。例えば、PFNのグループ会社のPreferred Robotics(PFR)は「カチャカ」という小型AMR(自律搬送ロボット)を販売している。
ロボットの典型的な課題は、ロコモーション、ナビゲーション、マニピュレーションに分けられる。ロボットの移動に用いられるロコモーションは近年、シミュレーションと強化学習によって大幅に進歩した。だがナビゲーションやマニピュレーションはまだ解決すべきことが多い。ナビゲーションに用いられるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は実用段階にあるが、まだ任意の場所には行けない。マニピュレーションは、VLA(視覚言語動作)モデルのような新技術によって今後大きく発展することが期待されているものの、まだ壁がある。
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