続いて、産出された製品が出荷されずに生産者の段階に残っている鉱工業在庫指数をみると、2020年5月以降は低下傾向が続いていたが、2021年6月以降上昇に転じている(図34)。
在庫量の変化についての事業者の認識をみると、2021年度の在庫量については「増加」「やや増加」の割合が3割を占めている(図35)。在庫について資本金別に比較すると、資本金100億円超の企業では、資本金100億円以下の企業よりも「減少」「やや減少」の割合が大きい。また業種別に比較すると、電気機械、化学工業において在庫の「増加」「やや増加」の割合は約4割となっているのに対し、鉄鋼業においては約2割にとどまっている(図36)。
これまで見てきたように、さまざまな社会情勢の変化がサプライチェーン全体に影響を及ぼしている。このような状況において、サプライチェーンの強靭化は必須だ。強靭なサプライチェーンの構築に向けた事業者における今後の取り組みについては、約半数の企業が「調達先の分散」を挙げており「国内生産体制の強化」「標準化、共有化、共通化の推進」の割合も多くなっている(図37)。
さらに、2020年度に行われた同様の調査結果と比較すると「国内生産体制の強化」が約2割から約4割に増加している。企業規模別に比較すると、中小企業、大企業ともに「調達先の分散」が最も多く、また「国内生産体制の強化」「標準化、共有化、共通化の推進」「調達先に関する情報の定期的な更新・メンテナンス」の割合も多い(図38)。
また、大企業においては「代替調達の効かない部材の排除、汎用品への切り替え」「調達先の地域的分散」「消費地生産」といった、設計変更や、調達先や生産拠点の複線化など、多くの経営資源が必要となる項目が高くなっている。世界的な半導体不足などにより生産活動が影響を受ける中で、国内サプライチェーンの強靭化に対して、より多くの経営資源を投入しようとする事業者が増加している様子がうかがえる結果となった。
サプライチェーンの強靱化に向けては政府も施策を講じており、令和2年度(2020年度)の補正予算などにおいてサプライチェーン対策のための国内投資促進事業や、海外サプライチェーンの多元化といった支援を行った。これらを通じて、サプライチェーンの強靱化を目的とした国内における生産拠点などの整備支援や、日本企業の海外生産拠点の多元化を支援した。
また「サプライチェーン強靱化に資する技術開発・実証」としてCOVID-19の世界的な流行によって顕在化したグローバルサプライチェーンの寸断リスクに対処するため、日本の製造事業者による国内生産拠点整備やアジア諸国などへの多元化に向けて、サプライチェーンの強靭化に資する技術開発も行った。技術開発については、供給途絶リスクの高いレアアースの使用を極力減らす、またはレアアースを使用しない高性能磁石の開発、不純物などが多く利用が難しい低品位レアアースの利用に関するものなどを行った。
世界規模での国際物流の混乱や、それに伴うサプライチェーンへの影響はしばらく続く情勢だ。これに伴い、デジタル技術を活用したサプライチェーンの効率化なども始まっている。第2回では、日本の製造業におけるDXの取り組みについて詳しく見ていきたい。
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長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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