中小製造業が部材のリサイクルを最適化するにはどうすればいいのかあらためて取り組む中小製造業のIoT活用(7)

本連載では、あらためて中小製造業がIoT導入を進められるように、成功事例を基に実践的な手順を紹介していく。最終回となる第7回は、カーボンニュートラルと同様に製造業が対応を求められているサーキュラーエコノミー(循環経済)で必須となるリサイクルの最適化を図る手順と管理のポイントについて解説する。

» 2025年07月16日 06時00分 公開

 前回は、カーボンニュートラルに向けたエネルギー管理の強化を行うために、電力などのエネルギー情報を設備や製品単位に収集しCO2の排出量や削減量の最適化を図る手順と管理のポイントについて解説しました。

 今回は、カーボンニュートラルと同様に製造業が対応を求められているサーキュラーエコノミー(循環経済)で必須となるリサイクル管理の強化に向けた、部材のリサイクルの最適化を図る手順と管理のポイントについて解説します。

⇒連載「あらためて取り組む中小製造業のIoT活用」バックナンバー

1.リサイクル管理の目的と強化のポイント

 本稿ではリサイクルを「部材の再利用」に位置付けて説明します。金属や樹脂だけでなく加工工程などさまざまな工程で、一度加工した部品を材料に戻して部材として再利用することが可能になっています。製品の品質を確保した上でリサイクルを行う必要があるため、リサイクルを行うには厳密な管理が必要となります。リサイクル管理の強化ポイントとしては以下の3点が挙げられます。

  • (1)リサイクルできる材料として正しいか「品番」のチェックをする
  • (2)1回の生産ロットの基準量範囲か「使用量」のチェックをする
  • (3)使用期限(賞味期限)など利用可能か「期間」のチェックをする

2.リサイクル管理の手順

(1)リサイクル対象の品番の管理

 リサイクルを行う品番の情報をマスター情報として整理します。リサイクルする部材は新規利用の部材とは別に品番を付けて管理することが一般的です。その際に使用できる加工品の品番と生産ロットに対するリサイクルできる比率が異なる場合がありますので、それを管理します。品番が変わると1回の生産量の数〜数十%と幅があるのが一般的です。

(2)リサイクル部材の入庫処理

 リサイクル部材が発生した場合、リサイクル部材に以下の情報を付与します。

  1. 品番:リサイクル部材の品番を表す
  2. 数量:部材の荷姿単位の数量を表す。一般的にはkgなどの重量で表現しているものが多い
  3. 入庫日:リサイクル部材が発生した日付。年月日表示が一般的
  4. 使用期限:再生可能な期限を表す。使用期限は部材ごとに異なる場合がある

 これらの情報はリサイクル部材が発生した際に表示するため、現品票に明記することになります。後でデジタル的にチェックできるように2次元バーコードなどにこれらの情報を記録して、現品票に印刷すると効率良く管理できます。RFIDを利用する場合は、RFIDの識別コードと現品票の情報をデータでひも付けておき、後工程でRFIDを読んだ際にひも付けた情報を呼び出して利用するとよいでしょう。

(3)リサイクル部材の使用時の対応

 リサイクル部材を使用する際に、これから加工する品番と使用するリサイクル部材の現品票の2次元バーコードを読み取り、(1)で整備したマスター情報から以下のチェックを行います。

  1. 誤品チェック:加工する品番とリサイクル品の組合せが正しいかのチェックをする
  2. 使用量チェック:加工する品番のロットサイズに対して投入する部材の投入量が基準範囲かチェックする。この場合、荷姿分投入したものと端数で投入したものが発生するため、重量計などと連携して投入量の実測値もチェックする
  3. 使用期限チェック:現品票の情報から使用期限内かチェックする

 上記1.〜3.のいずれかでNGがある場合は、現品票を読み取った時点や投入量の計量時点でエラーを表示して生産ができないようにインターロックをかけるとよいでしょう。

(4)リサイクル部材保管時の管理

 (2)でリサイクル部材の荷姿単位の情報に対して入庫日と使用期限が分かるようになっているため、定期的に使用期限切れがないかチェックをします。使用期限になる前にリサイクル品を使い切るように計画を立てることで廃棄ロスを減らすことができます。

図1 図1 リサイクル管理の手順[クリックで拡大]

 これらのリサイクル管理は、製品の品質確保が正しくできているかを確認することを目的としていますが、本来はリサイクルすることでGHG(地球温暖化ガス)の削減につながることがあるべき管理となります。例えば、金属の端材を再度溶かして利用すると地金をつくるときに比べエネルギーの使用量を削減できることから、再生材の活用で資源の有効活用とGHG削減の両面の効果が得られるケースもあります。このような観点でも取り組みを推進していただければと思います。



 今回で本連載は終了となります。中小製造業の経営者の方とお話をしていく中で、「IoT(モノのインターネット)導入はDX(デジタルトランスフォーメーション)につながるのか?」といった話がよく出てきます。製造業の現場を見ていると、何となくムダがありそうに感じる箇所はあるが定量的に把握できていないため、改善の余地はあるが改善につながっていない現場が多いと感じます。

 その中で品質問題が発生すると、回収作業や再納入および再発防止に追われて経営的なダメージを受けます。日々の生産活動を安定かつ効率的に実施/継続できるからこそ、他社と差別化できて付加価値も見いだされ、それらがDXにつながると説明しています。地道な活動が多いですが、昭和の時代から継続してきた人間力に頼るアナログな管理手法をデータドリブンのデジタルな管理手法に進化させていく取り組みをぜひ継続していただきたいと思います。(連載完)

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筆者紹介

株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)

NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、

原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。


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