日本のモノづくりの現状を示す「2021年版ものづくり白書」が2021年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2021年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第1回ではCOVID-19の影響を色濃く受けた日本のモノづくりの現状についてまとめる。
日本政府は2021年5月に「令和2年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2021年版ものづくり白書)を公開した。ものづくり白書とは「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成しており、2021年で21回目の策定となる。
2021年版ものづくり白書の解説に入る前に、まずは2020年に公開された節目となる第20回の2020年版ものづくり白書で指摘された4つの戦略について触れておきたい。2020年版ものづくり白書は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大が進行している最中に策定された。2020年版ものづくり白書においてCOVID-19の影響は、需要と供給の両面に強く表れることが懸念され、その経済的被害は2008年のリーマンショック時を上回ると指摘された。この急激な環境の変化により、過去のものづくり白書で示唆されてきた日本の製造業の課題や今後の戦略が当てはまらなくなる事態も発生した。
このような背景もあり、2020年版ものづくり白書では「不確実性の時代における製造業の企業変革力」を主題に据えていた。安全保障に関する国際的動向、地政学的リスクの高まり、気候変動や自然災害、非連続な技術革新、COVID-19の感染拡大などの「不確実性」を日本の製造業が直面する大きな課題と位置付け、不確実性の時代において製造事業者が取るべき戦略として、以下の4つを提起した。
2021年版ものづくり白書においても、デジタル技術はダイナミック・ケイパビリティを強化、促進、実現するために不可欠であり、「ウィズ・コロナ」「ポスト・コロナ」において非常に重要なツールだと位置付けられている。この点を踏まえ、2021年版ものづくり白書では「製造業のニューノーマル」は「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」を主軸に展開すると指摘し、これらの観点から日本の製造事業者の生き残リ戦略に資する動向分析を行っている。
「レジリエンス(Resilience)」は、「弾力」や「回復力」を意味する英語であり、もともとは物理学の世界で使われていた。2021年版ものづくり白書は、COVID-19拡大の影響により、地域を問わず自社の製造、調達拠点などサプライチェーンに同時多発的に被害や影響が発生し得ることが明らかになったことを指摘。自社のサプライチェーンのリスクを精緻に把握することなどにより、海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをしておくことが重要だと述べている。
日本を含めた各国政府は将来的なカーボンニュートラルの実現を表明しており、それに向けた取り組みがさまざまな領域で進みつつある。このような背景を踏まえて、日本の製造業が将来にわたり着実なビジネスの継続を図るためには、各国政府やグローバルメーカーなどが示したカーボンニュートラル実現に向けた取組や考え方を適切に理解し対応していく必要があるとしている。
ダイナミック・ケイパビリティの強化にDXが有効なツールであることは2020年版ものづくり白書から論じられている。しかし現状は、製造業に限らず多くの企業においてDXは道半ばである。今後、製造現場における5Gなどの無線通信技術の本格活用はダイナミック・ケイパビリティ強化のカギであり、その進展はレジリエンス強化に重要な役割を果たすと指摘している。
本連載では3回にわたって2021年版ものづくり白書の内容を読み解くが、第1回ではまず、2021年版ものづくり白書の「第1章 日本のものづくり産業が直面する課題と展望」を中心に、COVID-19拡大の影響がどのように日本の製造業に及んでいるかを確認し、その内容を踏まえつつ第2回以降で「製造業のニューノーマル」として掲げられた「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」についてより深く掘り下げていきたい。
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