日本のモノづくりの現状を示す「2022年版ものづくり白書」が2021年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2022年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第1回ではCOVID-19の影響を受けた製造業のサプライチェーン強靭化に向けた取り組みの現状を確認し、原材料価格の高騰という新たな課題が浮上している状況をデータで読み解く。
日本政府は2022年5月に「令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2022年版ものづくり白書)を公開した。ものづくり白書とは「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成しており、2022年で22回目の策定となる。
2022年版ものづくり白書の解説に入る前に、2020年及び2021年版ものづくり白書の要点を振り返っておきたい。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大が進行している中で策定された2020年版ものづくり白書では、製造業を取り巻く激しい環境の変化に企業が対応するために、自己を変革していく能力「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」の強化こそが最も重要になると述べていた。
これを受けて2021年版ものづくり白書では、ダイナミック・ケイパビリティを強化、促進、実現するために不可欠なものとしてデジタル技術を挙げ、「ウィズ・コロナ」「ポスト・コロナ」においてデジタル技術が非常に重要なツールになると強調した。加えて、製造業のニューノーマルは「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」を主軸に展開すると指摘した。
「レジリエンス(Resilience)」は、もともとは物理学の世界で使われている「弾力」や「回復力」を意味する用語だ。COVID-19拡大の影響により、地域を問わずサプライチェーンに同時多発的な被害や影響が発生し得ることが明らかになった。自社のサプライチェーンのリスクを精緻に把握するなど、海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをしておくことが重要である。
日本を含めた各国政府は将来的なカーボンニュートラルの実現を表明しており、さまざまな取り組みが進行しつつある。日本の製造業が将来にわたり着実にビジネスを継続していくためには、各国政府やグローバルメーカーなどが示したカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みや考え方を適切に理解し、対応していく必要がある。
ダイナミック・ケイパビリティの強化にDXが有効であることは、2020年版ものづくり白書で指摘されていた。しかし製造業に限らず多くの企業において、DXは道半ばの状態である。今後、製造現場における5Gなどの無線通信技術の本格活用がダイナミック・ケイパビリティ強化のカギを握る。その進展はレジリエンス強化に重要な役割を果たす。
2022年版ものづくり白書では、これら3つの視点を軸とする取り組みについて、進展をまとめている。第1回となる本稿では、2022年版ものづくり白書の「第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題」の「第1章 業況」「第2章 生産」を中心に、まずはCOVID-19拡大の影響も含めた製造業や生産の現状を確認し、サプライチェーン強靭化の取り組みがどのように進んでいるかを見てみたい。
日本の実質GDP成長率は、2020年第2四半期に前期比マイナス7.9%(年率マイナス28.2%)と、リーマンショック後の2009年を超える落ち込みとなった後、2020年第3四半期には個人消費の持ち直しなどが寄与し、前期比プラス5.3%(年率プラス23.0%)となった。2021年以降は大きな増減はみられていないが、2022年版ものづくり白書では、引き続きCOVID-19の感染状況など、内外の環境変化の影響に注視が必要だとしている。2020年時点で製造業は日本のGDPの約2割を占めており、依然として日本経済を支える業種の1つとなっている(図1、図2)。
企業の全般的な業況に関する判断をみると、大企業製造業においては、COVID-19の感染拡大などの影響により、2020年第2四半期は11年ぶりの低水準となった。中小企業においては、製造業、非製造業ともに大企業以上の悪化幅となった。同年第3四半期に入ると製造業、非製造業ともに改善し、2021年以降も上昇傾向だったが、2022年に入り大企業製造業・中小製造業ともに減少に転じた(図3)。
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