カーボンニュートラル、もしくはゼロエミッションの実現にはさまざまなハードルがあります。今週公開した電池の入門連載「今こそ知りたい電池のあれこれ」の最新回「埋蔵量は多いリチウム資源、需要に見合った現実的な供給は可能?」で紹介している資源の問題もそうですし、充電インフラや電力の供給などにも課題があります。現時点では、生活習慣に何の変化ももたらさずにエンジン車をゼロエミッション車に置き換えることは難しいです。
しかし、見方を変えれば、パワートレインの種類が異なるだけ、と捉えることもできます。EV(電気自動車)にせよFCV(燃料電池車)にせよ自動車業界にとって全く未知の動力源を使うわけではありませんし、クルマづくりで今までやってきたことが終わったり、不要になったりするわけでもありません。これまでの延長線上のこともたくさんあります。
そんなことを考えたのは、セダンタイプのEVに関する話題が続いたからです。1つはフォルクスワーゲン(VW)が2023年に生産を開始するEVセダン「ID. AERO」です。発表したのは量産に近いコンセプトカーで、中国の他、欧州と北米でも展開することが決まっています。バッテリー容量は77kWhですが、車名のエアロの通り空力特性によって満充電で620kmを走行できます(もちろん、空力特性だけで走行距離を稼いでいるわけではありませんが)。
セダンは伝統的な車両タイプです。自動車メーカーにとってよく分かっていることも多い一方で、前例が多いからこそ新しいアプローチが難しい領域なのではないでしょうか。また、セダンにこだわって選ぶユーザーであれば、運動性能に対する要求レベルや期待値も高いでしょう。特にSUV全盛期ともいえる今、セダンで新型車を出すからには、中途半端なものはつくれないよなあ、と考えてしまいます。
メルセデス・ベンツのクーペ風セダンのEVコンセプトカー「VISION EQXX」が1回の充電で1202kmを走破した、というのも興味深いニュースでした。バッテリー容量は100kWh以下とだけ公表されており、決して小さくはありませんが、空車重量1755kg、全長4975mmというセダンで1000km以上を走れるのは、かなり既存のエンジン車に近いのではないでしょうか。
1202kmを走破した走行テストでは、気温30℃という暑さの中、エアコンを総走行時間の半分程度使いながら、高速道路も走行しました。バッテリーや電動駆動システムの効率が追求されているのはもちろん、空力の改善や軽量化といった伝統的なアプローチも貢献してとても長い走行距離を実現しています。アルミ製ブレーキディスクやマグネシウムホイール、F1のサブフレーム、超軽量ソーラーパネルなどが採用されているそうです。
HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)も含めてエンジンを載せたクルマがいつなくなるのか、と捉えるとセンセーショナルになってしまいます。しかし、パワートレインが何であれ、クルマづくりの地道な側面は変わらないと考えると、冷静になれるような気がします。
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