車載用から他の用途へ、リチウムイオン電池のリユースの「論点」今こそ知りたい電池のあれこれ(11)(1/3 ページ)

今回は「持続可能な開発」のために今後同様に重要となるであろう、電池の「再利用」(リユース)について解説していきたいと思います。

» 2022年02月21日 06時00分 公開

 前回はリチウムイオン電池の「再資源化」(リサイクル)について解説しました。電池のリサイクルは、EV(電気自動車)や定置用蓄電池の需要増加に伴い、ますます重要になる技術、取り組みである一方、大型の電池パックに対しては現状確立した手法がなく、各社で研究・検討が行われている段階です。

 今回は「持続可能な開発」のために今後同様に重要となるであろう、電池の「再利用」(リユース)について解説していきたいと思います。

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車載用バッテリーはリサイクルの前に違う用途で「リユース」できる

 「リユース」と「リサイクル」は、どちらも「電池資源の有効活用」という目的が同じであり、しばしば混同されがちです。言葉の定義は人によってまちまちですが、本コラムでは「電池そのものを再利用」することをリユース、「電池を解体して原料を再利用」することをリサイクルとして話を進めさせていただきます。

 車載用電池は一般的に電池容量が初期性能の20〜30%ほど低下した時点で寿命とされています。寿命を迎えた電池はただ廃棄するのではなくリサイクルによる資源の有効活用を行うべきですが、前回ご紹介したようにコストなどの問題から大型リチウムイオン電池のリサイクルの仕組みはまだ十分に確立されていないのが現状です。

 こういった大型の電池はもともとの容量が大きいため、車載用途では寿命とされても、まだ多くの容量が残っており、定置用蓄電池など別の用途に「再利用」(リユース)できるのではないかと考えられています。

 日本においては、企業/自治体/政府などの連携や情報共有によって、電動車の普及上の課題解決に向けた検討を深めていく場として、経済産業省と次世代自動車振興センターが主体となり「電動車活用社会推進協議会」が2019年7月に立ち上げられました。

 そして車載用電池のリユースを促進するため、その協議会の下に設置されたのが「車載用電池リユース促進WG」です。このWGでは、各種事例紹介や課題認識の共有を通じて「リユースシステムの実装・拡大」に向けた議論が進められています。

 まず、このWGの議論において、公開されている内容の中から論点を幾つか取り上げ、その中身について触れていきたいと思います。

(1)残存価値

 車載用途で寿命を迎えた電池の性能や残存する価値をどのように「見える化」した上でリユースするか?

 自動車ユーザーの視点に立ったとき、電気自動車の中古市場価格が「電池の残存価値」を踏まえて適切に判断されたものであるかはとても重要な点です。WGでは、その根拠となる電池の残存性能を「見える化」する際に必要となる基本的な考え方や評価事例を「電池性能見える化ガイドライン」(※1)としてまとめる取り組みをしています。

(※1)関連リンク:http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/xev_pdf/xev_kyougikai_guideline_jp.pdf

 このガイドラインは、車載用電池の残存価値をユーザー自身が把握することで電池劣化に対する過度な不安を払拭させ、中古車両の価値評価の適正化を図ることや、そのための仕組みづくりを自動車メーカーへ促すことを目的としています。

 一方、リチウムイオン電池の材料構成やセル形状、それに起因する劣化モードが多岐にわたるため、電池の残存価値推定に必要な技術的難易度を高めている点や、残存性能の見える化について過度に標準化することによって各社車両における電池制御システムの開発競争を妨げる可能性がある点などが課題として指摘されています。

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