EV向けワイヤレス給電の現在地と普及に向けた課題和田憲一郎の電動化新時代!(57)(1/3 ページ)

2011年の東京モーターショーで多くの自動車メーカーが取り組みを発表したEV向けワイヤレス給電。それから約15年が経過したが、ニュースで取り上げられることはあっても実用化は進んでいない。このEV向けワイヤレス給電の現在地と普及に向けた課題について2人の専門家に聞いた。

» 2025年06月27日 08時00分 公開

 EV(電気自動車)向けのワイヤレス給電や走行中ワイヤレス給電については、ニュースで取り上げられることが多いが、現時点で実用化はされていない。では、現在の開発状況はどうなのか、また普及に向けた課題はどのような点にあるのだろうか。そこで、ワイヤレス給電に関する2人の専門家にインタビューを行った。東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授(EVワイヤレス給電協議会 会長)の堀洋一氏と、自動車技術会 ワイヤレス給電システム技術部門委員会 幹事の横井行雄氏である。

EV向けワイヤレス給電の現在地

和田憲一郎氏(以下、和田氏) 最初に、ワイヤレス給電と走行中ワイヤレス給電について、どちらか混乱する可能性があるので話を分けておきたい。専門家はそれぞれどのように分類しているのか。

堀氏 われわれは、停車中のワイヤレス給電はSWPT(Static Wireless Power Transfer)、走行中ワイヤレス給電はDWPT(Dynamic Wireless Power Transfer)と表記して分類している。今回はこの表記に基づいて説明したい。

図1 図1 ワイヤレス給電装置(SWPT)[クリックで拡大] 出所:ワイトリシティ

和田氏 では、SWPTとDWPTの現在地についてどのように見ているのか教えてほしい。

横井氏 現在地を考える前に、出発点はどこかということを確認しておきたい。2011年10月の東京モーターショーで、三菱自動車、トヨタ自動車、GM(General Motors)、ヤマハ発動機などがこぞって取り組みを発表した。しかしその後、2017年に総務省の省令改正が行われたものの、国内各社は国際標準化の未整備を理由に型式指定を1社も申請しなかった。

 なぜ、SWPTやDWPTが伸展しなかったのかと言えば、主に2つの理由がある。

 1つは、後ほども説明するが、SWPTの国際標準化が2011年から始まったが各国の合意の形成に手間取っていた。このため、多くの関係者が様子見していたのではないか。もう1つは、当時、米国のクアルコム(Qualcomm)と同じく米国のワイトリシティ(WiTricity)が規格争いで激しく対立していた事実を挙げておきたい。両社はコイル給電技術でも違いがあり、どちらが優勢となるのか多くの関係者は注目していた。その後、2019年2月にクアルコムが、保有技術、技術のライセンス権、1500件超の特許などをワイトリシティに移管することが公表され、ようやく2024年春になってSWPTのIEC 61980-1/-2/-3がIS(国際標準)として出そろい決着をみた。方向性がはっきりしたことで、SWPTの乗用(Light Duty)EV向けの国際標準化が一気に収束したのではないか。

堀氏 SWPT、DWPTとも、今後2〜3年で状況が大きく変わってくると考える。2024年に「EVワイヤレス給電協議会(WEV:Wireless EV Alliance)」を設立したが、現在は110の企業と自治体が参加している。2025年4月にはトヨタ自動車も参加を表明した。このように、多くの企業や自治体が参加してきたことで自動車業界全体のSWPTやDWPTに対する意識が再び高まっていることを感じている。

図2 図2 ワイヤレス電力伝送システムに関する課題[クリックで拡大] 出所:総務省電波利用環境委員会
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