需給動向の推移を見ると、2020年にはインドネシアのニッケル銑鉄(NPI)の増産によって供給量は増えたが、COVID-19による需要減で、結果的に需給バランスは小幅なものとなった。インドネシアは2021年も増産を継続したが、海外鉱山での操業トラブルに加え、需要サイドでステンレス需要や電池向け需要が大幅に増えて供給不足が生じた。2022年は供給が需要を少し上回るとみられるが、「電池向けの『クラス1ニッケル』は環境次第でタイトな需要状況になる可能性がある」(相楽氏)という。さらに、ウクライナ問題による影響については、ロシア産のニッケルを忌避する動きが見られており、従来の流通に影響を与える可能性があると指摘した。
今後のニッケル需要を見通す上では、電池の需要動向に注目することも大切だ。IEA(国際エネルギー機関)が試算した数値では、EVや蓄電池用途のニッケル需要は、各国政府の公表政策シナリオをベースにした場合、2040年には2020年比で約6倍となり、また、パリ協定に基づく各国目標を基準にした場合は、2040年に同比19倍になる見込みだ。ただし「2020年から2022年にかけての電池需要拡大のスピードは想定以上」(相楽氏)であり、予測を上回る可能性もある。ニッケルの供給が追い付かなければ、価格押し上げ要因ともなり得る。
加えて、ステンレス鋼向けのNPIなど、「クラス2ニッケル」の需要も堅調に推移すると見込まれる。ただ、クラス2ニッケルは供給拡大の余地があるため、余剰傾向に向かう可能性がある。一方で、クラス1ニッケルは不足傾向を示す見通しだ。
電池向けニッケルの供給が追い付かない場合、相楽氏は「自動車向け電池の場合、価格帯次第では電池の正極側にリン酸鉄リチウム(LFP)を採用するといった、材料の使い分けや、電池から材料を回収する再資源化を加速する対応が必要になるだろう」と指摘した。
世界有数のニッケル生産国であるインドネシアについて、住友金属鉱山の予測では2022年にNPIの生産量が100万トンを超えると見られており、同年におけるニッケルの世界生産量の内、約3分の1を同国のNPIが占める可能性があるという。一方で、供給の先行きに関しては、「インドネシアでは火力発電を主力とするエネルギー構成のため、カーボンフットプリントの観点から見ると不安要因になる。ニッケルについても、将来的に(車載)電池の材料としてどのような扱いを受けるかは不透明である」(相楽氏)とした。
ニッケルの供給におけるウクライナ問題の影響について、相楽氏は、「ロシアのニッケル地金供給量は世界4位だが、年間生産量は約15万トンで世界全体の生産量の数%を占める程度である。仮にこれらの供給が完全に途絶すれば問題となるが、そうした事態は生じないという見方が大勢だ」として、供給懸念が緩和すればニッケル価格は下げる余地があると説明した。価格の押し上げ要因としては、中国のロックダウン解除などを取り上げた。
ニッケル関連の注目動向としては、「短期的にはニッケル価格の高止まりがいつ落ち着くのか、中長期的には温室効果ガス(GHG)排出量の少ない電池向けニッケルをユーザーがどう確保するかを、政府の規制動向も併せて注目することになる」(相楽氏)と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.