最後に、音振動のエネルギー視点でのモデリングについて説明する。ここでは、考え方と適用例を簡単に述べるのみにとどめるので、詳細は参考文献[2]を確認してほしい。
図8に考え方を示す。対象物を複数の要素に分け、入力となるパワーと各要素のエネルギーの関係を定義する。ある要素にパワーが入力されると、一部は内部損失パワーとして消費され、一部は周辺要素に伝達され、各要素にはエネルギーが蓄積される。パワーの平衡式は電流則に相当し、パワーとエネルギーの関係は電圧測(オームの法則)に相当する。最終的には、
で表現され、知りたい周波数帯ωを決めて、入力パワーPを与え、各要素および要素間の損失率Lを定義することにより、各要素のエネルギーEを算出する。
損失率は、各要素自体の内部損失パワーと各要素間の伝達パワーとで定義方法が異なる。前者の内部損失パワーは、材料減衰の説明で触れた損失係数ηを用いて定義される。一方、後者の各要素間の損失率は、各要素の物性値(縦弾性係数、密度、ポアソン比)、形状(面積、接続長さ、厚さ)から決定される。このように、概略の形状のみで、境界条件などは必要ないため、詳細形状、構造が決まらない構想設計段階でも適用できるというメリットがある。
図8に示したように、この方法では最終的に各要素のエネルギーが算出される。音振動のエネルギーは図9のように定義されるので、この関係式から振動速度および音圧の実効値を知ることができる。
図10に、2つの板から構成される構造物の振動問題への適用例を示す。この方法は、最終的には連立方程式を解くことになるので、表計算ソフトで解析可能である。ここでは、2つ矩形(くけい)板があり、その1辺で接合されている状態を考える。図10中に黄色で示した項目が入力値で、後は自動計算である。対象周波数を1000Hzとし、矩形板(1)に単位パワーを与えた際の各矩形板(1)および(2)の振動エネルギー(振動速度の実効値)の算出例である。図10左下に、損失率の定義式を示す。定義式の理解には若干の時間を要するが、これさえクリアすれば計算自体は単なる算術計算である。
図11に、板で隔てられた2つの音場への適用例を示す(参考文献[3])。対象周波数を500Hzとし、音場(1)に単位音響パワーを入力し、板の振動エネルギーならびに各音場の音響エネルギーを算出している。各音場のエネルギー、E1、E3から等価損失
を予測することも可能である。
次回は、振動のモデリングの具体例として、ランドリー(洗濯機)の振動モデリングについて考える。 (次回へ続く)
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
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