「デライトデザイン」について解説する連載。第2回では、デライトデザインとは? について考える。まず、設計とデザインの違いについて触れ、ユーザーが製品に期待する3つの品質に基づくデザインの関係性にも言及する。さらにデライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法を紹介するとともに、DfXについて説明し、デライトデザインの実践に欠かせない要件を明確にする。
今回はデライトデザインとは? について考える。最初に、設計とデザインの関係を述べる。続いて、ものづくりの目標、目的を明確にするために、ユーザーが製品に期待するマスト、ベター、デライトの3つの品質に基づきデザインを分類し、その3者の関係にも言及する。次に、デライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法として、Michael F. Ashby先生(参考文献[1])が提唱するデザインの考え方を紹介し、さらに1990年代に米国で提唱、実践された「デザイン・フォー・エックス(DfX)」について説明する。そして最後に、デライトデザインとは? その要件を考える。
※)「ものづくり」の表記について:MONOistでは「モノづくり」で表記を統一していますが、本連載では「もの」と「モノ」の違いを重視していることから「ものづくり」としています(参考:連載第1回)。
日本では、なぜか「設計」と「デザイン」という言葉が使い分けられているが、必ずしもその違いは明確ではない。一般には、設計=機械設計、デザイン=意匠設計と理解されているようだが、そもそも機械設計、意匠設計の定義も曖昧である。また、設計もデザインも英語では“design”である。そこで、デライトデザインについて考える前に設計とデザインの定義を行ってみたい。
図1にデザインと設計の関係を示す。ここでは設計を構想設計(概念設計、機能設計、配置設計)と詳細設計(配置設計、構造設計、製造設計)に分けている。構想設計に相当するのがデザイン、詳細設計に相当するのが設計である。すなわち、デザインとはものづくりの方向性を見定めるために、構想を練り、イメージを描き、当たりを付けるプロセスといえる。設計では、デザインで決めた仕様に基づいてものづくりの具現化のために、仕様を具体化し、実体化し、検証するプロセスといえる。
設計で実体化するのに使用するのがCAD、検証するのに使用するのがCAEである。ものづくりのIT化(デジタル化)によって、設計に関する環境は飛躍的に向上し、ものづくりの効率化に寄与している。
図1から分かるように、デザインも設計と同様にものづくりの重要なプロセスである。自転車に例えると、デザインはハンドル(方向性)、設計は後輪(加速)と考えると分かりやすい。一方、デザインはその性質上、IT化が困難である。これをどう乗り越えるかがポイントとなる。
本連載の執筆陣のうち何人かはいわゆる総合電機メーカーに勤務、もしくは勤務した経験を有する。総合電機メーカーでは、家電から重電まで幅広い製品を作っている。この場合、図1でいうところの設計は家電でも重電でも大きな差はないと考えられるが、デザインに関しては“何を目的に作るのか”で大きく異なってくる。
そこで、デザインをその目的に従って分類する。この際、狩野モデル(参考文献[2])の考え方を適用する。狩野モデルとは、横軸に要求の充足度合い、縦軸に顧客の満足度合いを取り、製品の品質を「当たり前品質」「性能品質(一元的品質)」「魅力品質」の3つに分類し、可視化したものである。これにならって、
と3つのデザインに分類した(図2)。対象とする製品がどのデザインに相当するかは、製品ごと、製品を取り巻く環境ごとで異なってくるが、ものづくりの最初の段階で3つのデザインのどれに相当するかを考えることは、その目的を明確にする上で重要といえる。
では、これら3つのデザイン(マスト、ベター、デライト)はそれぞれ独立したものなのだろうか。実は図3に示すような関係性にある。
すなわち、マストがベースとして存在し、その上にベター、さらにその上にデライトが載っている構造となる。従って、3つのデザインの関係は、
と言い換えることができる。
例えば、あるお店で客の入りが悪いので照明を落としたとする。こうするとコストが下がるのでベターは上昇する(その度合いは微々たるものだ)が、客からするとお店に入りたいと思う魅力が低下するのでデライトは大幅に減少し、トータルのデライトデザインとしては悪いデザインとなる。
ここで重要なのは、マスト、ベターはその調整代(しろ)に限界があるということだ。製品としての故障率を下げるとマストは向上するが、コストが上昇しベターは減少する。このことからもこれは理解できる。それに対して、デライトはアイデア次第でマスト(故障率)、ベター(コスト)の大幅な減少を伴わずに増大させることが可能である。先のお店の例で考えると、照明、レイアウト、広報を工夫することにより、最小限のコストでお客を大幅に増やすことが可能である。ただし、あくまでも“アイデア、工夫次第”なのでこのための戦略、手法が必要となる。
[2]狩野紀昭 他:『魅力品質と当り前品質』, 品質 14(2), 日本品質管理学会, 1984
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