機械設計の基礎はアナログに詰まっている 〜JIS製図法(その1)〜若手エンジニアのための機械設計入門(1)(1/2 ページ)

3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるわけではない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第1回では、機械設計の目的や学ぶべき基礎知識の項目を整理し、JIS製図法の説明に入る。

» 2025年01月29日 09時00分 公開

 連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、機械設計を始めて間もない若手エンジニアの皆さんを対象に、機械設計で知っておくべき基礎知識や考え方などについて解説していきます。

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機械設計の目的と設計の仕事

 筆者が機械設計者になりたてのころの設計環境は、今とは全く異なるものでした。今でこそ3D CADやCAEによるデジタル設計環境が進化、普及していますが、その当時は「ドラフター」と呼ばれる製図台に向かって、手で図面を描くというアナログ環境が主流でした。

 このように、時代とともに設計環境は変化していますが、その根本にある設計の目的は変わりません。機械設計の目的とは「要求された仕様を満足する機械を設計すること」です。もっと分かりやすく言えば「『○○ができる機械がほしい』というお客さまからの要求を満たす機械を図面に落とし込むこと」です。

 機械設計者は、その目的を達成するために設計環境を用いて設計をするわけですが、先輩が設計したものを編集する(流用設計する)こともあれば、まだ世の中にないものを一から新たに設計することもあります。いずれにせよ、「設計の仕事は創造的なものである」と、長年設計に向き合ってきた筆者は実感しています。

機械設計で最強のエンジニアになるには?

 若手エンジニアの方々、あるいはその道を目指そうとしている皆さんは、どこで機械設計について学んできましたか? 工業高校でしょうか。それとも理系の大学でしょうか。ひょっとすると、別の道から新たに設計者としての第一歩を踏み出したという方もいらっしゃるかもしれません。

 学校教育のカリキュラムは別として、今ではインターネット上にさまざまな情報があり、すぐに検索して調べることができますし、近年の生成AI(人工知能)などの発展によって、質問すれば答えが得られるような環境も整備され、学びの機会が格段に広がりつつあります。

 しかし、そうして得られた情報や答えが本当に正しいか/正しくないかは、現時点では人間が判断しなくてはなりません。その判断を適切に行うためにも、設計者は機械設計の基礎知識を学び、しっかりと身に付けておく必要があります。そして、その力は実践などの経験を通じて培われ、欠かせないスキルやノウハウへと成長していきます。これらはデジタルではなく、アナログから得られるものだと筆者は考えます。

 今や、3D CADやCAEにもAI機能が組み込まれる時代です。デジタル技術を駆使したより良い設計を目指すには、アナログから得られる基礎知識と実践(経験)の両輪が欠かせません。単なる知識としてだけでなく、それをきちんと実践で使えるかどうかが重要なのです。それができれば、将来“最強のエンジニア”になれるかもしれません。

[基礎知識]+[実践(経験)]+[デジタル技術]=[最強のエンジニア]

機械設計者としてのキャリアプランを考える

 機械設計者としてのキャリアを積んでいくと、当然ですが、できること/任されること/責任の範囲もだんだんと増えていきます。機械設計者として自分が今どのくらいの位置にいるのか、将来どこを目指すべきか、キャリアプランを意識することも重要です。図1に、筆者がイメージする機械設計者のキャリアプランの概要を示します。

機械設計者のキャリアプランの一例 図1 機械設計者のキャリアプランの一例[クリックで拡大]

 設計業務の中には、図面を清書するトレーサーも欠かせません。トレーサーは製図技術やCADのオペレーション能力が求められるとともに、図面上の不具合などを設計者に助言する役割を担います。このような重要な業務がある中、機械設計者に求められるものは、“設計の本質となる機能性を確保することと、その裏付け”です。この点はしっかりと覚えておきましょう。

 機械設計の仕事を始めたばかりの入門者が、いきなり初級の要件を全てクリアできるわけではありませんので、焦らず地道に進んでいきましょう。自分のキャリアプランについては上司や先輩に相談することをオススメします。時々、思い描いたキャリアプランに沿って進めているかを振り返りながらキャリアを積んでいきましょう。

機械設計の入門者が学ぶべき基礎知識

 以降で、本連載で解説していく“機械設計入門者が学ぶべき基礎知識”について紹介していきます。まずは、過去の連載でも何度か取り上げたことのある「機械設計7つ道具+3D CAD」です。

機械設計7つ道具+3D CAD

  • JIS製図法:JIS製図法に基づいた正しい図面の描き方を理解する
  • 公差設計:品質とバラツキ、寸法公差、幾何公差、公差の計算方法、工程能力指数を理解する
  • 強度設計:荷重の種類、力の単位、応力とひずみ、静定、不静定問題、曲げ、ねじり問題といった機械強度設計で必要な内容を理解する
  • 機械材料:機械材料の選定に必要な知識を得る
  • 要素設計:ねじの用途と種類、歯車の用途と種類、歯車の強度、軸受けの用途と種類など機械要素を知り、その設計方法を理解する
  • 信頼性設計:機械の寿命、故障のパターン、FMEA、FTAなどの信頼性手法を知ることで、品質管理について理解する
  • 加工法:工作機械を使って素材を任意の形状に加工する方法を知り、部品加工について理解する

  • 3D CAD:3D CADを適切に操作し、正しい図面を描けるようになる

 他にも、機械設計で必要となる空圧機器やモーター、センサーといった機械要素機器については、「QC検定」や「機械保全技能検定」といった検定試験を活用することで、より実践的な知識を学ぶことができます。

初級者にオススメの検定

  • QC検定(3級、4級/民間資格):品質管理に関する知識や手法を理解することで、その基礎を身に付けられる。機械設計7つ道具の信頼性設計にも役立つ
  • 機械保全技能士(3級/国家検定):機械の種類や用途、電気の専門用語を学び、機械設計に必要な知識を習得できる。機械についての理解が深まる

 機械設計7つ道具については、入門者以外の機械設計者の皆さんにも推奨したいところです。案外、中級以上の機械設計者の方でも知らなかったり、理解していなかったりといったケースが見られます。入門者の方々にとって、機械設計7つ道具は機械設計を学んでいく際の道しるべとなるはずです。ぜひ押さえておきましょう。

 また、機械保全技能士3級について取り上げましたが、例えば、電気機器の基礎や、直動部品/回転部品に使用される潤滑油(グリス)の劣化の話題など、試験範囲には機械設計者が知らずに進んでしまうような内容がたくさん含まれているのでオススメです。

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