機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第8回は、この春から新人エンジニアとして社会に出る人たちへ、3D推進者からのメッセージをお届けする。
今回は、この春から社会人としての第一歩を踏み出そうとしている新人エンジニアの皆さんに向けて、3D推進者である筆者が考える“設計者のあるべき姿”についてお話したいと思います。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は、今や一般的なものとなり、特別な話題として取り上げられる機会もかなり少なくなってきたように感じます。3D CADを中心とする設計開発環境の構築はDXに似た取り組みでもあり、先進的な企業にとっては既に“当たり前のこと”で、そこに特別感はありません。
一方で、ツールを導入しただけの単なるデジタル化をDXと勘違いしている状況も多く見られます。設計開発現場に置き換えれば、3D CADを導入しただけで3D推進が成し遂げられるわけではありません。ただ、これもまだましな状況かもしれません。実は、単なるデジタル化でさえ実現できていない企業もあるからです。
では、そもそも3D CADの普及はどの程度進んでいるのでしょうか? TechFactoryが実施した読者調査「CADの利用動向に関する調査 2023」によると、次のような結果となっています。
職場環境において、「2次元から3次元への移行が完了している」が17.4%、「3次元への移行はほぼ完了しているが、2次元の運用も残っている」が29.6%という状況です。要するに、残りの53%の環境(移行中や検討中を含む)で、まだ3D CAD運用が行われていないということです。社外の協力会社やパートナーが2次元図面中心の運用であるなどの外部要因があるにせよ、3D CADの利用は思っている以上に進んでおらず、DX推進の状況と同様に、二極化しているように思います。
一体どのような問題が3D CAD普及を阻害しているのでしょうか。設計開発現場での問題と絡めて考えてみたいと思います。
以下、筆者の経験を基に、設計開発現場で生じる問題の一例を列挙してみました。
ここに挙げたものは問題の一部に過ぎませんが、本来必要な設計スキルが足りていないこと、アナログ的な旧来の仕事のやり方から抜け出せていないことなどが、問題を引き起こしている主な要因だと考えられます。FAXでの発注は、昔からの仕事のやり方を変えられない最たる例だといえます。
なぜ設計スキルが十分に上がらないのでしょうか。単に現場がこの問題に気が付いていないだけなのか、気が付いていても見なかったことにしているのか……いずれのケースもあるように思います。こうした状況を引き起こしている要因を整理したものが以下となります。
特に中小企業などでは、人材教育や3D CAD推進活動が“通常業務外”として扱われるケースが多く見られます。通常業務の対応を行いながら、業務外で人材教育や3D CAD推進活動に取り組むには、あまりにも負荷が大き過ぎます。また、そもそも担当者任せ(推進者任せ)の現場では周りからの協力や理解も得られず、思うように進めることができません。
ただ、周りの人たちが悪いというわけではなく、「忙しくて時間がないので、やりたくても(協力したくても)やれない」というのが多くの方々の本音でしょう。こうした事実があることも付け加えておきます。
さらに、現場が過去からの仕事のやり方から抜け出せない状況を引き起こしている要因としては、問題意識が足りていないことに加え、「新たな技術を学ぶことの必要性に対する意識が不足している」「新たな技術への理解が不足している」ことが挙げられます。こうした考えもまた、次世代に向けた人材育成や、3D CAD推進を阻害しています。このままでよいのでしょうか……。
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