米国中央情報局(CIA)の刊行物「The World Factbook」のデータ(2023年)によると、日本の平均年齢は49.5歳です。間もなく50歳に到達するといわれています。一方、海外の状況を見てみると、インドが29.5歳、ベトナムが32.7歳、米国が38.5歳、中国が39.5歳となっており、日本と比べて若さが際立っています。こうした若い人たちは「デジタルネイティブ」と呼ばれ、生まれたときからインターネット環境があり、デジタル機器があふれる世界の中で育ち、デジタルを駆使することが当たり前の世代です。
そんな彼らはデジタルを駆使して、“便利な世界”を実現する知識を持っており、それを現実のものにするため、起業という形で社会に進出しています。特に海外でスタートアップ企業が多くみられます。2024年2月に米国で開催されたダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2024」でも、海外のスタートアップ企業の若者たちが“MODSIM(Modeling&Simulation)”の考え方に基づき、徹底的にデジタルによる設計開発に取り組んでいる様子やその成果をたくさん見ることができました。
世界から見て平均年齢の高いわが国ですが、日本の若い世代が世界から劣っているわけでは決してありません。筆者は長野県工科短期大学校の1年生に対して、設計を行う上での3D CADの指導を行っていますが、学生たちは約3.5カ月の短い期間で、“設計の初歩的な考え方と3D CADを使いこなせるスキル”を身に付けています。共通していえるのは“デジタルネイティブ世代の人たちにとって、デジタル運用は決してハードルの高いものではない”ということです。むしろ、われわれ世代よりも得意といっていいかもしれません。
言い換えれば、若い世代の人たちがこれからのDXの推進役/DXの担い手になる可能性が十分にあるということです。企業の皆さんは、デジタルネイティブ世代の人たちの意見や知識を尊重し、より多くのチャンスを与えるべきだと考えます。
これからのエンジニアは、デジタルを駆使した業務推進力が求められますが、同時に、アナログ的な知識と経験も重要だと筆者は考えます。筆者が学生たちに提供しているプログラムは“機械設計視点での2D/3D CAD教育”であり、単にCADのオペレーション(デジタルツールの使い方)を学ぶだけの内容ではなく、JIS製図のような機械設計に必要な知識についても指導しています。「3D CAD、3D図面を扱うのだから、もう2D図面の知識は不要だ」と思っているようなら、それは大きな間違いです。
重要なのは「3D図面であっても一義性を持つこと」です。
今、設計開発の現場において「3DA(3D Annotated)」が注目されています。3DAはアノテーションを記した3D図面のことで、ジオメトリ(形態)、サイズ、サイズ公差、幾何公差、製造要件、注記、数量など、製造部門でも活用できる情報が付加されています。設計意図というのは、3D形状として目に見えているジオメトリ(形態)だけで表すことはできません。また、「MBD(Model Based Definition)」といわれる、従来2D図面に描かれていたPMI(製造情報)を3Dアノテーションとして3Dモデルに持たせる手法があります。近年、3D CADもシステムとしてMBDに対応できるようになっていることから、今後さらに普及する可能性があります。
このような背景から、3D図面であっても一義性を持つことが重要であり、そのためにも2D図面の標準化で用いられてきたJIS製図の知識が求められるのです。3DEXPERIENCE World 2024においても、「SOLIDWORKS」に対するEnhanced Request(機能改善リクエスト)の中に、MBDに関する内容が上位に入っていました。
他にも、エンジニアとして学んでおくべきことがいくつもあります。以下はその一例です。
今よりも便利な世界を実現していくデジタルネイティブ世代のエンジニアにとって、アナログ的な知識を学び、吸収することは、設計の本質を理解することにつながります。筆者は「エンジニアの学びに終わりはない」を信念に掲げています。進化し続ける技術やデジタルエンジニアリング環境を学び、過去の経験と照らし合わせることが、未来の創造につながると信じています。 (次回へ続く)
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