機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第7回は、米国で開催された「3DEXPERIENCE World 2024」で発信されたメッセージを踏まえ、設計開発環境の在り方、3D設計の未来について考える。
3D設計ソリューション「SOLIDWORKS」とSOLIDWORKSの機能を拡張するイノベーションプラットフォーム「3DEXPERIENCE Works」の年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」(会期:2024年2月11〜14日[米国時間]/会場:ケイ・ベイリー・ハッチソンコンベンションセンター)に参加してきました。開催地は米国テキサス州ダラスです。
今回は、同イベントにおける注目ポイントを整理しつつ、これらを踏まえた3D設計の未来、設計開発環境の在り方について、筆者の考えを述べたいと思います。
まずは、3DEXPERIENCE World 2024における2つの注目ポイントをご紹介します。
ここ最近の注目キーワードといえば「生成AI」ですが、3DEXPERIENCE World 2024においても、AI(人工知能)/生成AI活用に関するメッセージが大きく打ち出されていました。SOLIDWORKSでは、既に“設計者が繰り返し行う作業をAIで支援する仕組み”としての設計支援機能が実装されていますが、今回のイベントでは、
など、“AIを活用した自動生成による設計支援”に関するメッセージが目立ちました。
これらは、対話型AIチャットサービス「ChatGPT」のように、設計者が用途やサイズ、仕様などに関するスクリプトを入力するだけで、目的の部品形状が得られる(自動的に3Dモデル化してくれる)といったものではありません。しかし、“既知の情報(データ)から新たな情報を生成する”という点において、単に3D CADのコマンドを自動化するような設計支援とは異なるAI活用の方向性だといえます。
前回の「3DEXPERIENCE World 2023」では、モデリングとシミュレーションの融合による、設計開発段階での製品品質を向上させる仕組みとして「MODSIM(Modeling&Simulation)」というコンセプトを発信していました。
それ以来、筆者は「MODSIMは設計者CAEと何が違うのか?」とモヤモヤしていましたが、今回のイベントで「設計者CAEが設計の妥当性を検証するものであるのに対し、MODSIMは製品品質そのものを検証するものだ」と解釈することができました。
MODSIMのアプローチにより、デジタルと現実世界が一致するという前提で、設計開発が進められます。設計検証はもちろん、製品検証もデジタルの世界で実現でき、さらに広い範囲の事象の検証をマルチフィジックスとして進めることが可能です(筆者解釈)。
そのように、頭の中を整理することができたきっかけとなったのが、3DEXPERIENCE Worksポートフォリオのユーザー事例としてゼネラルセッションのステージで紹介されたQARGOSの取り組みです。QARGOSはインドのスタートアップ企業で、交通量の多いインド都市部における新たな物流手段となり得る貨物用電動バイク「QARGOS F9」を開発しています。
QARGOSは、ダッソー・システムズのスタートアップ支援プログラム「3DEXPERIENCE Lab」を活用しており、SOLIDWORKSを用いた設計だけでなく、3DEXPERIENCE WorksポートフォリオによるMODSIMアプローチをQARGOS F9の開発に適用。クラウド上の3DEXPERIENCEプラットフォームを軸に、「SIMULIA」によるマルチフィジックスシミュレーションの実践なども取り入れながら、各種ツールやデータのシームレスな連携を実現し、クラウドの力、デジタルの力をフルに駆使したモノづくりを行っています。彼らの事例を目の当たりにした筆者の視界は一気にクリアになり、プラットフォームの可能性を強く実感することができました。
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