製品開発だけでなくビジネスの成功も支援するダッソー・システムズのAI戦略3DEXPERIENCE World 2024

SOLIDWORKSと3DEXPERIENCE Worksの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」が米国テキサス州ダラスで開幕した。本稿では、ダッソー・システムズのAI戦略について詳しい説明があった2日目のゼネラルセッションの模様をお届けする。

» 2024年02月14日 12時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 米国テキサス州ダラスで開催中の「3DEXPERIENCE World 2024」(会期:2024年2月11〜14日/会場:ケイ・ベイリー・ハッチソンコンベンションセンター)の2日目のゼネラルセッションでは「PRODUCT,EXPERIENCES,SUCCESSES」をテーマに、ダッソー・システムズ SOLIDWORKS CEO 兼 R&D担当バイスプレジデントのマニッシュ・クマー氏が登壇。1日目のゼネラルセッションの中でも触れられていたAI(人工知能)活用についてより詳しい説明が行われた。

ダッソー・システムズ SOLIDWORKS CEO 兼 R&D担当バイスプレジデントのマニッシュ・クマー氏 ダッソー・システムズ SOLIDWORKS CEO 兼 R&D担当バイスプレジデントのマニッシュ・クマー氏[クリックで拡大]

支援型、生成型の双方でAI活用を推進

AIを活用したコマンド予測のイメージ AIを活用したコマンド予測のイメージ[クリックで拡大]

 冒頭、クマー氏は「ダッソー・システムズはこれまでにもAIを活用した『Mate Helper』や『Sketch Helper』といったさまざまな支援機能をSOLIDWORKSユーザーに提供してきた」と前置きした上で、AIが設計者(SOLIDWORKSユーザー)が次に行うであろう作業を予測して、最適なコマンドを提示する機能を紹介。通常、SOLIDWORKSの無数のコマンドの中から自分が使いたいものを見つけるためには、その都度、メニューやタブを切り替える必要があるが、次のコマンドをAIが予測して提示してくれることで、そうしたムダな作業(価値を生み出さない作業)を最小化し、デザインエクスペリエンスの向上につなげられるという。

 さらに、デザイナーおよび設計者が、新コンセプトの製品に関するインスピレーションを得るために、ヒントとなる写真などの画像データをSOLIDWORKSに取り込み、スケッチで丁寧にトレースして3Dモデル化するケースがある。ただし、取り込んだ写真をスケッチでトレースし、3Dモデル化するまでのプロセスは単なる変換作業(地道な手作業)にすぎず、決してクリエイティブな作業とはいえない。ここで役立つのがAIによって画像からスケッチを起こす「Image to Sketch」機能だ。

「AIとデザインアシスタントが、価値を生まないムダな時間を削減し、アイデア検討段階での生産性を向上させる。SOLIDWORKSユーザーはアイデアからエクスペリエンスの提供までをより迅速に進められるようになる」(クマー氏)

AIによって画像からスケッチを起こす機能(1)AIによって画像からスケッチを起こす機能(2)AIによって画像からスケッチを起こす機能(3) AIによって画像からスケッチを簡単に起こすことができ、すぐに3Dモデリングが行える[クリックで拡大]

 ダッソー・システムズでは以上のような支援型のAI機能だけでなく、1日目のゼネラルセッションでダッソー・システムズ 会長のベルナール・シャーレス氏が「Magic SOLIDWORKS」(AIにより魔法なような体験がもたらされるSOLIDWORKS)と表現していたデモや、指定した空間に対してAIが最適な家具を自動設計する「MakeByMe」のような生成型のAIに関しても、“ムダな作業から解放し、クリエイティブな作業へと導く”ことを目的に、さまざまな取り組みを進めている。

 その例として、クマー氏は居住空間の3Dバーチャルプランニングが行える「HomeByMe」でのAI活用のイメージを紹介。これまでにユーザーが作成してきた何百万にも上る居住空間のバーチャルツインデータを基に学習したAIによって、3Dスキャンの結果から居住空間の正確な3Dモデル(バーチャルツイン)を自動生成したり、特定の部屋にマッチする家具を提案したりなど、「部屋のサイズやユーザーの嗜好に基づき、複数の家具レイアウトを自動生成して提案してくれる」(クマー氏)という。

HomeByMeでのAI活用(1)HomeByMeでのAI活用(2)HomeByMeでのAI活用(3) 居住空間の3Dバーチャルプランニングが行える「HomeByMe」でのAI活用のイメージ[クリックで拡大]

 さらに別の例として、クマー氏は3Dモデルからの図面化(AIによる図面生成)についても言及。クマー氏は「指定した3Dモデルの図面化をAIに要求するだけで、図面が自動的に生成され、それが3DEXPERIENCEプラットフォームに保存される。図面データがプラットフォーム上にあれば、どのデバイスからでも閲覧でき、必要であれば編集も行える。製造のために設計者が自ら3Dモデルから図面を起こす必要がなくなり、その浮いた時間をイノベーションの創出に使うことができる」と説明する。

3Dモデルからの図面化(AIによる図面生成)について(1)3Dモデルからの図面化(AIによる図面生成)について(2) 3Dモデルからの図面化(AIによる図面生成)について[クリックで拡大]

 AI活用による効能は、何も製品設計に限定したものではなく、ビジネス全般にも価値のある洞察をもたらす可能性を秘めている。例えば、予期せぬ事態が発生した際にリスクを分析したり、影響範囲を予測したり、改善ポイントを可視化したりといったことが、AIによってリアルタイムに分かるようになるという。

 講演では、自動車メーカーの取り組みを題材に、「例えば、自動車部品に使用していたアルミニウムの価格が高騰した場合に、それが収益にどう影響するかなど、AIが結果を予測して改善点を見つけ、リスクの軽減に寄与する。また、利益にマイナスの影響を及ぼすコンポーネントを特定し、代替する手段の検討などにも役立てられる」(クマー氏)ことを紹介した。

自動車メーカーを例に、ビジネス上のさまざまなリスクをAIで予測し、改善につなげられる点を紹介 自動車メーカーを例に、ビジネス上のさまざまなリスクをAIで予測し、改善につなげられる点を紹介[クリックで拡大]

 以上のようなAI活用に必要となる学習用データに関して、クマー氏は「皆さんは、AIがわれわれの要求に応えるために必要となる多くのデータを日々生み出している」と述べ、そうした膨大なデータをクラウド上のプラットフォームに一元的に統合管理できる、3DEXPERIENCEプラットフォームの必要性を訴える。

「AIの活用に不可欠な膨大なデータを、統合的に管理できる3DEXPERIENCEプラットフォームは単なるデザインとイノベーションのためのプラットフォームではなく、真のビジネスプラットフォームとなり得る。われわれは、ダッソー・システムズの全ブランドを通じて、お客さまの未来の実現を支援していく」(クマー氏)

(取材協力:ダッソー・システムズ)

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