ダッソー・システムズの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」の会場で、水上バイクの電動化を目指す米国のスタートアップ企業eSkiを取材。開発に至った経緯や狙い、今後の展望などについて詳しく聞いた。
エンジンを搭載し、ウオータージェット推進によって走る水上オートバイ(以下、水上バイク)。海や湖などで楽しめるアクティビティーとして世界的にも人気が高く、現在日本ではカワサキモータース、ヤマハ発動機が水上バイクの開発を手掛けている。ちなみに、日本で水上バイクに乗るには特殊小型船舶免許が必要となるが、比較的短期間で取得できることもあり、コロナ禍で取得者数が増加したそうだ。
一方で、水上バイクの騒音や排気ガスによる環境への影響が問題視されるケースも見られる。日本では業界による規制によって、水上バイクによる騒音や排気ガスを低減する取り組みもなされているが、利用マナーも含め、周辺住民や環境への配慮が強く求められている状況にある。さらに、近年ではサステナブル(持続可能)な社会の実現に向けた取り組みが世界的に加速していることもあり、環境および海洋生物の保護の観点などから、より一層の騒音低減、排気ガスに含まれるCO2排出量の削減などが求められ、水上バイクのイノベーションが急務となっている。
そんな中、バッテリー駆動型の電動水上バイクの開発を手掛けているのが、米国マサチューセッツ州に拠点を構えるスタートアップ企業のeSki(イースキー)だ。現在同社は50万米ドル(約7500万円)以上の資金調達に成功しており、最初のプロダクトとなる「Trident ES1」の開発を進めている。
ダッソー・システムズの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」(会期:2024年2月11〜14日/会場:ケイ・ベイリー・ハッチソンコンベンションセンター)の会場で、eSki 創業者 兼 CEO(最高経営責任者)のJack Duffy-Protentis(ジャック・ダフィー・プロテンティス)氏に、バッテリー駆動型電動水上バイクの開発経緯や狙いについて話を聞いた。
バッテリー駆動型電動水上バイクを開発するきっかけ、eSki創業の経緯について、プロテンティス氏は「水辺に近いニューイングランドで育ったこともあり、幼いころからレクリエーション用水上バイクに慣れ親しんできた。しかし、一般的な水上バイクの騒音が約110dB(ヘリコプターの近く、自動車のクラクション[前方2m]、ライブハウスと同じレベルのうるささ)もあり、1時間当たり最大で250ポンド(約113kg)のCO2を排出しているという事実を知り、美しい地球環境を次世代に残すために何とかできないかと考え、水上バイクの電動化に取り組むことを決め、2021年にeSkiを設立した」と説明する。
ちなみに、プロテンティス氏は米国マサチューセッツ州にあるウースター工科大学の出身で、機械工学の学士号を持つエンジニアだが、網膜の遺伝性疾患であるスターガルト病を患っており、視界の中心部がほとんど見えない視覚障害者でもある。3D CADを用いた設計などディスプレイを見ての作業は、いわゆる拡大鏡アプリのようなものを使用して行っているという。
eSkiが目指すのは、電動ミキサー(ブレンダー)よりもはるかに静かで、CO2などを含む排気ガスを出さず、水質汚染のないクリーンな完全バッテリー駆動の水上バイクの開発だ。最初のプロダクトとなるTrident ES1は、最高出力230馬力(171.5kW)のラジアル電気モーターを搭載し、優れたスロットルレスポンスにより瞬時の加速が可能。さらに、バッテリーとモーターによる電動化によって、燃料、オイル、スパークプラグなども不要となり、従来の水上バイクよりもメンテナンス性が高いことが特長だ。
Trident ES1の販売開始は2025年予定で、まずは北米から展開する計画。主なターゲットはレンタル市場だ。「最終的には、水上バイクのニーズがある世界中に販路を拡大したい」(プロテンティス氏)という。販売開始当初の1台当たりの価格は約2万5000米ドル(約375万円)になる見通しだが、生産台数の増加に伴いさらなる低コスト化、低価格化も実現可能だとする。
プロテンティス氏は「一般的な水上バイクと比較して高価に思われるかもしれないが、燃料費やメンテナンスコストが大幅に削減され、製品の寿命自体も2〜4倍に伸びる。製品ライフサイクル全体で見ると、最大で5万5000米ドル(約825万円)の節約が見込める試算だ」と説明する。
同社はTrident ES1の開発に当たり、ダッソー・システムズのスタートアップ支援プログラム「3DEXPERIENCE Lab」を利用。プロテンティス氏が学生時代から慣れ親しんできた3D設計開発ソリューション「SOLIDWORKS」で設計を進めつつ、ヤマハ発動機製の水上バイクをベースにプロトタイプを製作し、構造を確認したり、機能要件を固めたりしていったという。さらに今後は「3DEXPERIENCE Works」ポートフォリオ製品の活用も順次進めていき、サプライヤーや加工業者などとのコラボレーションの実現に役立てたいとしている。また、Trident ES1の開発と並行して次期モデルの検討、さらなる資金調達に向けた活動も始めているという。
水上バイク業界における電動化の動きは他社でも一部見られるが、eSkiの強みとして、独自開発のホットスワップ対応バッテリーシステム(特許取得済み)が挙げられる。「これにより、長時間での連続ライディングが可能になる」(プロテンティス氏)という。さらに、このバッテリーシステムを水上バイク以外のさまざまなモビリティや設備などに展開することも視野に入れており、同社のバッテリーパック/バッテリーシステムがインフラとして機能することも狙っている。
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